さよならのキスを

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さよならのキスを

 斬は、左腕を斬り落とされた明日覇を抱きかかえた。 「明日覇、大丈夫か。すぐに手当てを!」 「ええ、大丈夫よ。もうすぐ、お迎えが来るから」 「お迎え? 何だそれは。あの腕をくっつければ、治るんだろ?」 「治らないわよ、見て」  シュウウウウウウ 「う、腕が、消えていく!」  黄金の左腕は、音と煙を上げて溶け始めた。 「あの腕があったから、私は110年もこの若さで生きていたのよ。あれがなくなったら、私には人間としての寿命しかないのよ。だからもう……」  次第に、明日覇は弱々しくなっていった。 「あ、明日覇、しっかりしろ、しっかりしてくれ!」 「斬、ありがとう。私、あなたに会えて、本当に良かったわ」 「なあ、初めて斬って、呼んでくれたよな、これからも、斬って呼んでくれよ。もっと、オレに色々と教えてくれ!」  斬は、明日覇の右腕を強く握った。 「あなたは、火輪剣の極意を体得したから、もう私に教えることは、ないの」  だが、その腕は冷たく、そしてミイラのようにやせ細っていった。 「そ、そんな……!」  斬は、その腕を頬につけた。そして、流れる涙は、干からびた明日覇の体に染み込んでいった。 「ねえ、最後にお願いがあるの」 「な、なんだ」 「キスっていうものを、してみたいの」 「あ、ああ」  これが、明日覇の最期の言葉になった。  斬は、枯れ行く明日覇の唇に、自分の唇を重ねた。  その時、斬は理解した。 (この人は、死ぬんだ……。生のエネルギーが、たちまち天に召されて行く……)  そして、斬と明日覇は唇を重ねたまま。  シュウウウウウ  明日覇の体が少しずつ、その存在感を薄くし、煙と微かな音を立てて消えて行った。 ~終わり~
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