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駆け引き
「何をごちゃごちゃ言っているの? 死ぬ覚悟はできたかしら」
「ええ、姉さん。私と、取引をしない?」
明日覇は、そう言いながら、ゆっくりと明日那に歩み寄っていった。
「取引? あなたと私に、そんな材料はないでしょう」
「私の左腕、姉さんにあげるわ。だから、彼を助けてあげて」
「ん? 降参する気になったの」
「ええ。私たちでは、姉さんには勝てないって分かったわ。だから、負ける時も、被害は最小限にしたいから」
明日覇は、その黄金の左腕を、ズイと前に出した。
「ふうん。元々これは私が持つべきものだから。遠慮はしないけれど」
そう言いつつ、明日那はその左手を握り、ぐいと引っ張った。
トトト
明日覇がよろけた。
「姉さん。この左手を、あなたに渡した時、私の命も尽きるって知ってるわよね」
「ああ、そうだったわね。どうでもいいことだけれど」
明日覇の寿命は、その化物の左手があるがゆえに、長く保持されている。
それがなくなった時、明日覇の命も尽きるのだと、明日覇は斬に告げていた。
「だから最後に、姉さんを抱き締めさせて」
「ん? くだらないことを」
グイッ
明日覇が、明日那を思いきり引っ張った。
そして、力いっぱい抱き締めた。
「ぐっ、何をするっ!」
「弱虫っ、今よ、今しかないわ! 私と一緒に、姉を斬って!」
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