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先ほど聖来の事を睨みつけていた谷口先輩だ。
「あの~、ちょっとお話聞かせてもらっていいですか?」
谷口先輩はアケチの事をチラッと見ると、その後ろにいた私と聖来、蓮くんの事を順番に見て、再び視線を戻すと聖来のところで止まった。
「あんたたちに話すことなんかないわよ」
思いっきりトゲトゲしい言葉を投げてきた。でも、そんな薔薇のトゲほどもない小さなトゲではビクともしないのがゾンビのハートだ。
「お時間とらせませんから」
食い下がるアケチに、谷口先輩はあからさまに舌打ちをした。
残念ながら谷口先輩には蓮くんのイケメンマジックは効かないようだ。
それどころか、谷口先輩は新たなトゲを投げつけてきた。
「水町さん、部外者なんか連れてこないでよ。さっさと追い出して」
「すみません」
聖来がすぐに謝ったけど、谷口先輩の放ったトゲは思いもよらないところに刺さったようだ。
「水町は何も悪い事はしてないだろ、こいつに当たるのは筋違いだろ」
蓮くんが谷口先輩にかみついた。
蓮くんがかみつくことを誰も予想していなかったので、谷口先輩は目を丸くた。
「落ち着け、蓮」
「俺は至って冷静だ」
いやいやいやいや……かなり熱くなってますよ。やかんをのせたらすぐにお湯が沸きそうだ。
聖来もかなり驚いたようで、穴が開きそうなくらい蓮くんを凝視している。それに全く動じないのはアケチだけ。ゾンビの襲撃はしつこいんです。
「すぐに退散しますんで、ひとつだけ質問いいですか?」
「何」
谷口先輩の不機嫌さは変わらなかったけど、質問には答えてくれるようだ。
「消えた部長さんの絵ってどんな絵だったんですか?」
すると、谷口先輩は再び聖来にきつい視線を投げてきた。
身の置き所に困った聖来が下を向くと、蓮くんが聖来と谷口先輩の間に立ち、視線を遮る。
睨みつける相手を失った谷口先輩は、フンと鼻をならしそっぽを向いた。
「さあね、何だったかしら」
やはり知らないようだった。アケチは前述したようにすぐに退散する。
が、やっぱりゾンビ、一筋縄ではいかない。
アケチは去り際に、もうひとつ質問を投げた。
「部長さんはゴリラの絵を描きますか?」
私の頭の中にはクエスチョンマークが浮かんだが、谷口先輩は怒りを更に膨れ上がらせた。
「はぁ? なんでゴリラなのよ。あれはどう見たって女神でしょ」
「へぇ~、部長さんは女神の絵を描いたんですね」
「し……知らないわよ。ど、とにかくゴリラなんか描かないって事よ」
谷口先輩は明らかに慌てていたけど、アケチはそれ以上突っ込んで聞くことはしなかった。
「あなたが部長の絵を見たのはいつが最後ですか?」
「……昨日」
見たことがないと言っておきながら、『女神だった』とか、最後に見たのは『昨日』とかメチャクチャ怪しいワードが谷口先輩の口から出てくる。
そのことに谷口先輩自身も気づいたのか、ハッとしたように口を押えた。
「もういいでしょ。早く出て行って」
そう言って谷口先輩は私たちを追い出す。
突然のシャットアウトにどうすることもできず、仕方なく美術室をでた。
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