第一章

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「で、その酔狂野郎は、どんなちょっかいを出したんだ?」  蓮くんが疑問を口にした。  そう言えば、それは私も聞いていない。  アケチを見ると、怒りに顔を歪ませた。 「僕の靴を移動させる不届き者がいる」  いまいち理解に苦しむアケチの言葉に、蓮くんが再び質問した。 「どういうことだ?」 「僕の靴を一段上へ移動させるんだ。ご丁寧に上履きもだ」 「ん?」  蓮くんが首を傾げた。  すかさずアケチが蓮くんに詰め寄る。 「どうした蓮。怪しいヤツを見かけたか? まさか犯人を知っているとか?」 「いや……」  蓮くんは否定しながらも心当たりがあるのか、何やら考えている素振りを見せた。 「お前、犯人を知ってるな? 変に庇い立てすると、犯人隠避の罪に問われるんだぞ。正直に話せ。いくら親友でも僕は容赦しないぜ」  刑事か。  サスペンスドラマに出てくる人情に厚い刑事か。  思わずそう突っ込みたくなるけど、それはガマン。でも黙っているつもりはない。 「ちょっと、そんなん大げさだよ。たかだか上履きを移動させたくらいでしょ。イタズラに過ぎないじゃない」 「大げさなもんかッ! 一回や二回の話じゃない。入学してからずっとだぞ。それも毎日欠かさずだ。イタズラの範疇を超えているッ!」  今にも蓮くんの胸ぐらを掴みそうな勢いのアケチを宥めたつもりだったけど、それは逆効果だったみたいで、余計にアケチの神経を逆なでしてしまったようだ。  アケチは唾を飛ばさんばかりの勢いで、私に言い返してきた。  入学してからずっと、それも毎日欠かさずイタズラされれば、そりゃあ、アケチじゃなくても怒るのも無理はない。  長い年月、土の中で暮らしていたセミも、そろそろ出番だと這い上がってくる時期。私もセミほどでじゃないけど、受験生という辛く苦しい時を経て、ようやく輝かしい高校生となって早や三ヶ月。  よくもまあ、三ヶ月も我慢したね。  思わず感心してしまったけど、蓮くんはそう思わなかったみたい。 「お前さぁ~、下駄箱の使い方分かってる?」  蓮くんがトンチンカンな質問をした。 「僕を馬鹿にしているのか?」  アケチが目を吊り上げた。そりゃあ、仕方ない。下駄箱の使い方は幼稚園生でも知っている。それを高校一年生に聞けば誰だって怒る。  けれど、蓮くんは至極まじめにアケチに聞いている。何か意味があるに違いない。 「アケチ、あんたの出席番号って何番だっけ?」 「二十四番だが……おい、何する気だ? ちょっと待て、今犯人を待ち構えて……」  私は制止するアケチを無視して下駄箱へと向かった。  現場百遍。実際に見てみなきゃ分からないことは山ほどある。下駄箱を見れば、蓮くんが言わんとしていることがきっと分かるはず。  一年F組の下駄箱で十七番と記された場所を見た。  なるほど。  百聞は一見に如かず。  一目瞭然、明々白々、簡単明瞭、先人たちはよく言ったものだ。見れば納得。蓮くんの言いたいことが、よぉ~く分かった。  私はアケチを手招きした。  アケチは面白くない顔をしているけど、素直に私の招集に応じる。ふてくされて歩くアケチの後ろから蓮くんがついてくる。  まるで連行される犯人みたい。当然アケチが犯人だけど……。  二人が私のところに来た。 「蓮くんの出席番号って十七番?」  私は犯人を連行してきた刑事に……もとい、後ろを歩いてきた蓮くんに尋ねると、蓮くんは黙って頷いた。  それを見て、私は蓮くんと同じ質問をアケチにぶつけた。 「アケチ、下駄箱の使い方知ってる?」  当然アケチは怒る。 「莉子まで僕をバカにするのかッ! さっき、小林くんって呼んだからその仕返しか?」  小林くんって呼ばれたのは腹が立ったけど、仕返しするならもっと別の方法で……というのは飲み込んだ。  興奮するアケチに、私は冷静に質問を重ねる。 「アケチの下駄箱はどこ?」  何をバカなことを、と言いたげな顔をしたけど、私の質問にアケチは素直に答えてくれた。  アケチは二十四番と書かれた、ナンバープレーの下の空っぽの下駄箱を指さした。  やっぱり。
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