第一章

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 不確かだった自分の考えが、確信へと変わった瞬間だった。 蓮くんは呆れたようにため息を漏らし、アケチひとりがチンプンカンプンという顔をしている。 「靴や上履きを戻したのは、蓮くんだよね」  全く予想だにしていなかったのか、アケチは私の言葉にひどく驚いた顔で蓮くんを見た。蓮くんはといえば、いたって冷静に頷いた。 「そんな……蓮……僕はお前のことを親友だと思っていたのに」  ひどくショックを受けたのか、アケチは崩れ落ちる様にその場に膝をついた。 「いやいやいやいや、そんなショックを受けることじゃないから」 「親友に裏切られたんだぞ。ショックを受けるだろ、普通」 「裏切られるも何も、そもそもこれは事件でもイジメでもイタズラでもないから」  これはアケチの勘違いと、蓮くんの優しさかが絡み合って……そもそもアケチが悪いんだけど……すべてはアケチの間違いが引き起こしたこと。  蓮くんもひと言アケチに『下駄箱間違ってるぞ』って言ってくれていれば、こんな事にはならなかったんだけどね。  三ヶ月も様子をうかがっていたアケチもアケチだけど、三ヶ月も入れなおしていた蓮くんも相当根気強いというか我慢強いというか、しぶとい。 「アケチさぁ、あんたの下駄箱はここだから」  そう言って、私は二十四番と書かれたナンバープレートの上の下駄箱を指さした。 そこにはきちんとアケチの靴がお行儀よく収められている。多少くたばってはいるけど、それはアケチが酷使しているからに他ならない。なんの脅威にもさらされていないアケチの靴は、のほほんとお行儀よく下駄箱に納まっている。  それに比べて隣の蓮くんの下駄箱といえば、あふれんばかりにかわいい封筒が入っている。靴を取り出すのがひと苦労だ。 蓮くんの下駄箱に比べれば、アケチの下駄箱は淋しいくらいに何もない。と、これは蓮くんの方が例外になるのだけど。アケチの下駄箱は至って普通だ。  単に、アケチが下駄箱の位置を勘違いしていただけ。  そう、アケチの下駄箱は蓮くんの隣で、下から二番目だ。  何故かこの学校では、一番下の下駄箱は使わないようにしてある。それが謎と言えば謎だ。  アケチよ、どうせならそっちの謎に食いついてくれ。  謎ではあるけど、とにかく一番下の下駄箱は常にカラでなくてはならない。 だから本来なら、アケチはナンバープレートの上の段を使わなければならないのに、間違えて下の段を使っていただけの事。それに気づいた蓮くんが親切にも本来の下駄箱に入れなおしていた、というのが真相である。  三か月間も靴を入れなおしていた蓮くんにも驚きだけど、自分の下駄箱が間違っていることに気付かないアケチもアケチだ。  自称探偵を気取るなら、そのくらいの洞察力はあって然り。一番下の下駄箱は不使用ということくらい気づけよ!  っていうか、普通は気付く。探偵を気取っていなくても気付く。  人騒がせな下駄箱事件……事件とういうほどのことでもないけど……は無事解決、ということで解散。
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