第一章

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 うなだれるアケチを放って、私は自分の下駄箱から靴を取り出そうとした。  その時、親友の姿を見つけた。 「聖来≪せいら≫!」 「エッ!」  私は聖来を呼び止めたのに、何故か蓮くんが驚いたように声を上げた。  むふふふふふふふふ……。  私は知っている、蓮くんが水町聖来≪みずまちせいら≫のことを好きなのを。  わかるよ。聖来はかわいいもん。女の私から見てもめっちゃキュートだもん。黒くて長い髪はサラサラだし、色は白いし、パッチリした大きな瞳で見つめられたら、そりゃ、ときめいちゃうよね。ドキドキしちゃうよね。蓮くんが惚れるのも分かる。 私が男だったら間違いなく惚れてるよ。  そんな天使のような聖来が、手を振る私に気付いて近づいてきた。  すると、蓮くんがそわそわしだした。超絶イケメンで女の子には事欠かない蓮くんが、好きな女の子の前ではタジタジなんて可愛いかも。 「莉子。今日はもう帰るの?」 「うん。聖来はこれから部活?」 尋ねると、聖来は首を振った。 「ううん。今日は休み。私も帰るから一緒に帰ろ。ってか、あんたのダンナどうした?」 「ダンナじゃないから!」  全力で否定する。  私とアケチは単なる幼馴染。それを、聖来は時々茶化す。 「はいはい、で、どうした? あしたのジョーみたいに廃人になってるよ」 うなだれるアケチを見て、私に聞いてきた。 「いちいち大げさなんだよね。単に三ケ月間下駄箱間違えていたってだけなんだけど、それを事件だ! 謎だ! って騒いでいたから、私が木っ端みじんに砕いてやったのさ」 「なるほど、あんたも大変だね」 「蓮くんも被害者の一人、だよね?」 「そうなの?」  聖来が窺うように聞くと、 「え゛っ!」  話かけられると思っていなかったのか、蓮くんはものすごく驚いて声が裏返った。  コホンと咳払いすると、蓮くんは少しすました顔をする。  それが尚更いじらくって、チョット意地悪したくなる。 「お、俺は別に……じゃ、俺帰るから」  そう言うと、蓮くんはそそくさと踵を返したので、急いで腕を掴み引き留める。 「ちょっと待った。アケチを回収してってよ」 「なんで、俺なんだよ。莉子の家はアケチの隣なんだから、莉子が回収していけよ」  片づけをしていて不要なものを押し付けあっているように聞こえるこの会話。  本人が近くにいても、まったく聞こえていないから良しとする。 「え~ヤダよ。テンション高いアケチも面倒くさいけど、テンション低いアケチはもっと面倒くさいんだもん。それに、私は聖来と帰るし……」  言ってる途中でいい案を思いついた。 「蓮くんも一緒に帰ってくれるなら、アケチ回収しま~す」 「え゛っ!」  本日二度目の裏返り。コホンと咳払いでごまかすのもさっきと一緒だ。  すると、聖来が割って入った。 「どっちでもいいけど、私ちょっと美術室にスケッチブック取りに行ってくるから、それまでに話つけといて」  それだけ言うと、聖来は美術室へと行ってしまった。
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