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話し合うまでもなく、蓮くんは聖来というニンジンにまんまとかぶりついた。
話はすぐについたけど、すぐに戻ってくると思っていた聖来が、なかなか戻ってこない。
「遅くないか」
蓮くんが心配そうに、時計を見た。
確かに。『ちょっと』はせいぜい二・三分、五分までが許容範囲。でも、すでに十五分は経過している。
何かあったのかな。
「事件の臭いがする」
今の今まで廃人だった男が、ゾンビとなって復活した。もとい、廃人と化していたアケチが、水を得た魚のように目を爛々と輝かせていた。
何やらアケチのポンコツ探偵アンテナが、何かのレーダーを察知したらしい。
この先、テンション高い面倒くさいアケチに、振り回されるのが決定した瞬間だった。
蓮くんと二人同時に大きなため息を漏らしたのは、言うまでもない。
アケチは先陣を切って美術室へと向う。
その後ろを私と蓮くんがついていってるだけなんだけど、何やら視線が痛い。
蓮くんの隣を歩いている私のことが気に入らないのか、鋭いまなざしで私のことを睨んでくる人たちがいた。
蓮くんは超絶イケメンで背が高くて、成績優秀なうえに運動神経も抜群。モテないわけがない。そんなモテモテの蓮くんの隣を、私みたいな冴えない女の子が歩いていればそりゃあ、面白くないのは理解できるけど、ただ隣を歩いているだけなのに、嫉妬に燃えた視線を投げられても困る。
でも、そんな熱烈な視線を送ったところで、蓮くんの心には、すでにひとりの女の子でいっぱいなんだから無駄ですよ。
むふふふふふ……。
とはいえ、この視線は痛すぎる。これを無視できるほど私の神経は太くない。
少しだけ歩くテンポをずらして、蓮くんの後ろを歩くようにした。
けれど、少し遅れて歩く私に蓮くんが振り返って首をかしげた。
「どうした? 具合でも悪いのか?」
蓮くんは頭がいい割には、女心には疎いみたい。
「あのさ、蓮くんいい加減自分がモテるって事、自覚してくれないかな」
「……?」
子犬のような目で首をかしげるその仕草。
ズルい。無意識だからホントたちが悪い。
そんな目で女の子を見つめたら瞬殺ですよ。心臓破裂でキュン死ですよ。
思わず恨みがましく睨みつける私に、蓮くんは更に首を捻る。
「さっきから、女の子たちの視線がめちゃめちゃ刺さってきてるの気付かない?」
言われて周りをキョロキョロする蓮くん。
恥ずかしさのあまりサッと姿を隠す子、少しでも認知してもらいたくて笑顔で手を振る子と様々だけど、蓮くんは自分に視線が集中していることに、全く気づいていない様子だ。
ふと疑問が浮かんだ。
「蓮くんさ、自分がものすご~くモテるって気付いてる?」
すると蓮くんは驚いたように目を見開いた。
「俺が? モテる? 笑えない冗談言うのはやめてくれ」
いや、それこっちのセリフだから!
蓮くんはカッコいいんです。成長するに従いほんとカッコよく成長しました。半分アケチに分けてあげてほしいくらい。
「下駄箱にいっぱい手紙入ってたよね」
「ああ、あれかホント迷惑してんだよ。俺の下駄箱をゴミ箱だと勘違いしているやつらがいるんだ」
「……」
蓮くんの言葉に、私はマリアナ海溝よりも深ーいため息をついた。
この時、長年の謎がついに解けた。
蓮くんが、どうして人に迷惑ばかりかけるアケチと仲がいいのか。単なる幼馴染だけではアケチとは付き合えない。それなのに長年連れ添っているのは、ひとえに鈍感だからに尽きる。
そうじゃなきゃアケチと友だち付き合いなんて無理。マジで無理!
私がアケチの面倒を見ているのは、会うたびにアケチのお母さんに泣いて頼まれるからだ。
そう言えば、この前蓮くんも、おばさんに『智明の事見捨てないでやってね』って、しがみついてお願いされてたっけ。
私と蓮くんは小学校からの付き合いで、言わば同志なわけだけど、ホントこの鈍感さは何なんだろう。
でも、この鈍感さも蓮くんの魅力の一つでもあるんだけどね。
思いを込めて一生懸命書いたラブレターをゴミだと思われていたなんて、ちょっと……いや、かなり悲しい。
これは、ここだけの話にしておこう。
「蓮くん、それゴミじゃないから」
「え? ゴミじゃないのか?」
連くんは心底驚いたように目を見開いた。
ゴミなわけないじゃん。よく見てよ。花柄やハート柄の封筒だよ。どうしてそれがゴミなわけ? どんだけ鈍いのよ。っていうか、これまでラブレターって見たことないの? これだけモテてそれはないよね。ならわかるはずなんだけどな、普通。
「ゴミじゃないから捨てないで」
「……うん、わかった。ゴミじゃないのか、そうか……なら、アケチへの依頼か?」
何故そうなるっ!
いつから蓮くんはアケチの窓口になった?
っていうか、そもそもアケチに依頼は来ない。絶対ない。うちのおじいちゃんに生理が来ないくらい、ないから!
「お願いだから、読んで。読めばわかるから」
「……読めばわかるのか? そうか……」
「そうだよ! だから、絶対捨てないで! わかった?」
「…お、おう、わかった。次から捨てずにちゃんと読む」
力説する私に蓮くんは若干引き気味に頷いた。
そんなこんなで美術室についた私たちだけど、美術室が何やら騒がしい。
めずらしくポンコツ探偵アンテナが正常に作動したらしい。
蓮くんもそう思ったらしく、二人して顔を見合わせた。
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