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アケチはすごく怒鳴られたのに『めげる』ってことを知らないのか、しぶとく部長さんに食らいつく。
「絵を探すお手伝いをしたいだけですよ。質問に答えてくれたら、すぐ退散しますんで、お願いしますよ」
「本当に質問に答えたら、出て行くんだな?」
執拗につきまとうアケチに観念したのか、部長さんが聞いた。
すると、アケチはニコニコ笑顔で頷いた。
ゾンビ対ゴブリン、今回の対決はゾンビに軍配が上がったようだ。
「部長さんが最後に絵を見たのはいつですか?」
「朝登校してきたときに、絵の具の乾き具合を見に来たのが最後だ」
「どんな絵なんですか?」
部長さんは何故か口を閉ざした。すると、アケチは別の質問をした。
「この部屋は施錠されていたんですか?」
「いいや、カギはかかっていない」
「で、どんな絵なんですか?」
「……」
「部長さんの絵がここに置いてあったのは、皆さんご存じなんですか?」
「ああ、知っている」
「ところで、どんな絵を描かれたんですか?」
「……」
「部長さんがこの部屋に来た時、誰かいましたか?」
「いいや、誰もいなかった」
「誰かに恨まれてるとか?」
「さあな、自分に心当たりがなくても恨まれることもあるからな」
「で、どんな絵なんですか?」
「……」
いくつもの質問にすんなり答える部長さん。けれど、絵の内容になると、なぜか口をつぐむ。
どうしてそれだけ答えてくれないのか気になるけど、先ほどから痛いくらいの視線を感じる。
これは蓮くんの隣を歩いていた時に感じた視線とは、少し様子が違う。見れば、鋭い視線でこちらを睨みつけている女生徒がいた。
女生徒は部長さんやアケチではなく、私や蓮くんでもなくなぜか聖来の事を睨んでいるようだった。
こっそり聖来に聞いてみる。
「ねえねえ、聖来。あの人さっきからずっと聖来の事睨んでるけど、あんたなんかしたの?」
聖来も視線には気づいていたようで、少し困った顔をした。
「谷口先輩……でしょ。私には心当たりがないんだけど、何日か前から私に対して当たりが強いのよ。気付かないうちに何かやらかしちゃったのかな」
不安そうな聖来。
聖来はとても美人でスタイルもいい。頭も良くて運動もできる。普通ここまで完璧だといわれのない妬みや恨みを買いやすいが、男っぽいサバサバした性格ゆえか、同性からあまり嫌われることがない。中学の時には女の子からもラブレターをもらうくらいだ。
とはいえ、面白く思わない人もいるだろう。モテるがゆえに恨まれるのは、ある意味仕方のないことかもしれない。
そんな事を考えている間にも、アケチと部長さんの会話は続いていた。
「朝、絵は乾いていましたか?」
「いや、まだ乾いていなかったからここに置いておいたんだ」
「そうですか。それなら心配ですね」
「ああ、そうだな。誰かのいたずらなら早く返してほしいもんだ」
「心配はそれだけですか?」
「絵がなくなったんだ、それ以外に何を心配しろって言うんだ」
怒り気味の部長の言葉に、アケチは納得したようにうなずいた。
「本当に、早く見つかるといいですね。で、どんな絵なんですか?」
「……」
またもや無言の部長さん。
「どんな食べ物が好きなんですか?」
「ハンバーグ」
これには部長さんはすんなり答えてくれた。
「おお、僕と一緒です。で、どんな絵なんですか?」
「……」
かたくなに口を閉ざす部長に対し、しつこく聞くアケチ。絵以外の質問は全く関係ない事になっていることに、はたして気付いているのか……。
「どんな小説が好きですか?」
「あまり本は読まない」
「え? そうなんですか? 僕は推理小説が好きなんです。アーサー・コナン・ドイルの緋色の研究はおすすめですよ。で、どんな絵なんですか?」
「……」
「どんなパンツ履いてるんですか?」
「白の――って、そんな事聞いてどうするんだっ! もういいだろ。さっさと出て行ってくれ」
パンツの色まで答えようとしたくせに、自分が描いた絵の事だけは言おうとしない部長さん。これにはアケチも観念したようだ。
ゴブリンの勝利である。
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