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りっさちゃんから聞いた話では、震災の時もネットサーフィンしていて、揺れても平然としていたというが、本当だろうか。東京だって、あんなに揺れたのに。
帰宅難民になった幸ちゃんに、お茶漬けを作ったと云っていた。有り難く召し上がる兄。テレビと電子レンジが落ちないよう、つっかえ棒を取り付ける弟。
その頃もわたしは苛々仕事と生活をしていた。電車無いし、混んでるし、六本木ヒルズだけ停電しないとかいうし、Cちゃんが他人のスニーカーを勝手にはいて帰って、なぜかわたしが隣の会社に謝りに行くはめになったし。
無性に六本木に対する憎しみがつのり、六本木方面行きの電車に乗ることにさえ、三ヶ月間抵抗を感じた。
自分をたいせつにしたくても出来ないのにしろとか。
「えー、しんさいとかもあったので、ボーナスは無くなると思います」
あの時の上司の顔。可愛いDちゃんに妬みからの嫌がらせばかりして、そのせいでますますぶすになっていたし、負のムードを撒き散らしていた、半年後に来なくなったわたしの直属の上司だった女。
とうちゃんの会社ではずっとボーナスが出続けている。カンブのとうちゃんは何とか地球一周旅行が出来るくらい貰っていて、運転手もついている。
運転手はハヤシダという四十八才の男で、のび太に似ている。原発事故の後、妻子は沖縄に引っ越して、ハヤシダだけが残り、それからずっと単身赴任が続いている。原発事故の時、やっと授かった娘さんは三才になったばかりだったので、単身赴任は気の毒とわたしは思ったが、とうちゃんはハヤシダを気に入っているのだ。
とうちゃんは自分の気持ちを常に優先する。いつでもくまなく新聞とネットに目を通し、エネルギーの使い方が変わるのは面白いことじゃないか、どんどん色々考えりゃあいいんだ、つまらない奴は原発があろうが無かろうがつまらない奴だと笑う。
「カズトシさんの考えてることって、わかんないわぁ」
りっさちゃんは云う。
「ユリちゃんは」
兄が訊くので
「なのくんのこと勝手に心配してあちこち電話してるよ」
ほんとのことを云う。
「ユリちゃんらしいわねぇ」
叔母が困った顔をすると、ニート本人は
「俺は俺なりに悩んでんの」
ポッキーに手を伸ばす。
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