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幸ちゃんとおじさんとわたしは笑う。限定味のポッキーは残り三本、今のうちに食べておこうか。
「まぁ、それがユリちゃんの良いところでもあるけどね、あの人、まだ自分で服作ってるものねえ」
「あ、いや最近は作ってないみたいですけど、手元が見づらいとか云って、何でも年のせいにしてますよ」
大きくおじは笑う。
「りくちゃんは、ユリさんに厳しいなぁ」
「いい気になってますからね、慢性的に」
皆が笑う。限定味は残り一本、わたしは手を伸ばし、無事ゲットした。
「ポッキー、たまに食うとおいしいよね」
と云うなのくんに、頷く。
震度三、だったような体感があり、幸ちゃんと目が合う。
「あら揺れたかしらね」
「もう、親父たち年で揺れ感わかんなくなってきてんじゃない」
「はっはっは」
おじは太い指でリモコンのボタンを押し、テレビが強い光を発射する。
「特にやってないかしらね、そんなに揺れなかったし、あらこれ何さんだっけ」
高い階から、ずうっと下へ落ちていくエレベーターみたいに、急激にぼうっとする幸ちゃん。
元気ななのくんが云う。
「あの、あれ、愛子さま」
「そうそうそう、なんかわたし忘れちゃうのよね、この子。でも今日可愛い服着てるわね、いいじゃない」
「雅子さまは、元気になったの」
声の力が半分になった兄。
「うーん、一時期よりいいんじゃなかった、ね、りくちゃんどう思う」
「うーん、そうみたいですね。ま、髪型変わるって、いーんじゃないですかね、ロングの方がお似合いかなとか」
「そうねぇ、いつからかロングにしたのよね、ほらこれこれ」
雅子さまが笑顔で手を振っている姿が大映しになる。
「わたしはね、雅子さま派なのよね。でユリちゃんは紀子さま派なのよね」
云われて、わたしはよくわからないまま中途半端に頷く。
「俺はあの人苦手だなぁ」
父の言葉に兄弟は笑う。
「あの人の笑顔、どうもなんだなぁ」
わたしも笑う。そうなのか。
「おじさんが誰かのことはっきり苦手って云ってるの、わたし初めて聞いたかも」
素直に云うと
「親父は、紀子さまは、ずっと苦手なんだよね」
少し元気を取り戻し、長い脚を組み直すインディゴブルウ。
「いや、すきじゃないっていうんじゃなくてさ、なんか苦手なんだよ。とにかく顔っていうより笑顔がね、何でだかなぁ」
知らなかったわたしは一人大きく笑ってしまう。
「うちの母なんか、あの顔になりたいって云ってますよ」
「いやいやいやいやいやいやいやいや」
蛇腹のようなおじの声に皆笑う。
幸ちゃんは高卒のあと、車の専門学校に三年行って、高二から五年間ガソリンスタンドでバイトをしていた。休まないことに、りっさちゃんは驚いていた。
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