4人が本棚に入れています
本棚に追加
心に余裕がなくなると、ひとの呑気さや、悪気はない言動も受けとめたり許したりできなくて、自分も相手もティッシュペーパーみたいにびりびりにしたくなる。正論ついて考える。
自分が仕事を辞めるとなって、ひさしぶりになのくんのことを思い出した。
無職を意識して五日目で、酸素欠乏感を禁じえない程あせりはじめたのに、なのくんは十年も働いてないはずなのだ。どうして発狂せずにいられるのか、俺なりに悩んでるってどういうことなのか。
なのくんみたいに生きてる人も居るのに、無収入でもタバコ吸ってるのに、わたしやかなや涼子はなぜ生理をおかしくしてまで泣きながら働いてんだろう。だって、王族じゃないからだけど。
だけど、わたしはもし神サマか何かに、アンタとなのくんでは彼が下等ですかと訊かれたら、そうですとは云わないと思う。なぜかと訊かれたら今はうまく答えられない、つかれているから。
幸ちゃんがもっと疲労困憊で、うつだったり、弟をぎすぎすした目で見ていたらちがうんだろうか。
ポッキー終了。
「アヤノリだ」
なのくんが云った。
「おお、アヤノリな」
おじさんが云う視線をたどると、ミュートにしたテレビに、Dちゃんの理想の彼氏が映っていた。
「俺たちは、アヤノリって呼んでるんだよ」
兄が説明してくれる。
「今の女の子はみんなアヤノリがすきなんでしょ」
なのくんが、投げやりな感じで云うので
「んなこたないよ。わたしの周りでは一人だけ」
「えーみんなアヤノリなんじゃないの」
「ちがうちがう、カントリーの古林だったり、野党の玄葉洋一郎だったりよ」
「へぇ……テレビ情報とちがうね」
「うん」
三人の男が口々に、アヤノリじゃないと確認しあっている。
おじさんが腕を組んで
「うちは女の子が居ないから、リアルな女の子情報がないな」
と云った。
最後まで食器洗いひとつ手伝わせてもらえなかった。あり得ないのだけど、この家はいつもこうだ。
りっさちゃんに、やらなくていいと、しっしってされてしまう。色々ルールがちがう。
コートを着ながら、またしばらくしたら遊びに来させてくださいと云ったら、なのくんが、イスに座ったまま「しばらくと云わずにちょいちょい来たらいいよー」と云った。
とうちゃんは、なのくんについては何も云わない。
最初のコメントを投稿しよう!