1.我こそは魔界の神なり!

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1.我こそは魔界の神なり!

 我が名はルシファー・ドミニオン。暗黒波動拳(あんこくはどうけん)を極めし者。  この世界に転生してからというもの、俺は暗黒波動拳だけを見つめ、これまで生きてきた。  人間としての年齢は、一年程前に三十路を迎えたところだ。  俺に伴侶はいない。もとより約三十年間生きてきて、これまで愛を語り合った者など一人たりとも存在しない。  これは暗黒波動拳を極めんがため、暗黒波動拳だけを見詰める人生だったが故の犠牲の結果だ。それに万が一にも、俺に愛する者が存在したとしよう。その者もまた何者かよってに命を狙われ危険を被ってしまうではないか。  俺の呪われた宿命に関係の無い者を巻き込むわけにはいかない。故に、影の世界に生きる者としての俺は、孤独に身を投じることを決意し一人で生きる道を選んだのだ。  暗黒波動拳を極めし者は、常に何者かに命を狙われる宿命だ。その肉親もまた例外ではない。だがしかし、血を分かつ家族だけは見捨てる訳にはいかない。  故に、俺は自らの家族を守らんがために、やむなく肉親である家族たちと生活を共にしている。  とりあえず仕事はしている。現実世界で暮らしていくためには、経済活動をして通貨を稼がなければならないのだ。  自宅から程近い金属加工の町工場で、俺は毎日しがないパート勤務をしている。  現実世界でいう高校と呼ばれている施設を卒業して以来、俺は約半年もの間、家から一歩も外に出ない生活をしていた。  そんな俺を見かねたのか、俺のお母さんは知り合いの伝手を頼って必死に頭を下げて、何とか仕事を一つ紹介してもらってきてくれたのだ。自分でも不甲斐ないとは思っているが、それが俺の現実世界での仕事である。  本来なら俺はこんなことをしている場合ではない。だがしかし、これは常に何者かによって命を狙われている俺にとって、世を忍ぶ仮の姿を演ずるがためのやむを得ない所業なのだ。  俺はいつか魔界への帰還を果たす。そう、魔界での俺の存在価値は違う。  我、魔界の覇者なり。そして明けの明星の審判者なり。  暗黒波動拳を極めし者である俺は、魔界ではもはや全知全能の神ゼウスをも凌駕するほどの存在である。  魔界の民たちは皆、誰もが俺を敬い崇拝している。魔界での俺は絶対の存在、俺が法であり俺が正義なのだ。
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