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ちなみに会社の規則では、帰宅する際のロッカーの鍵は扉の鍵穴に挿したままの状態で工場を出なければならないことになっている。そのため盗難を防ぐためにも、靴は絶対に自宅に持ち帰らなければならないのだ。
先輩の靴を預かってから、もう五年あまりが経つ。
いつでも先輩に快く持ち帰って貰うために、俺は休日には欠かさず預かったその靴を洗浄しているので、今でも状態を良好にして管理し続けている。
以上が俺のリュック・サックの中に入っているアイテムの全てだ。
今日の退勤の際に伊田野に中身が何なのか尋ねられて答えられなかったのは、一つ一つを説明すると話が長くなってしまうからだ。
それに政岡が不機嫌だったあの状況下で全てを伊田野に説明していたら、激昂した政岡に俺はあの時殺されていたかもしれない。
そんな恐怖心から、俺は伊田野にリュック・サックの中身を上手く説明できなかったのだ。
今度は伊田野英明について考えてみる。
彼は普段俺と同じ夜勤帯の同じ工場建屋内の隣の部署で働いていて、たった一人でその部署の夜勤務をこなしている派遣社員の男である。
年齢は三十代半ば。見た目は肌の色が少し日に焼けていて浅黒く、口元の歯が少し出ているのが顔の特徴である。
俺は彼が所属する部署の作業工程が何なのかは分からないし、はたして何なのかと理解しようとも思わない。ただ、彼の部署が我々の部署の前の工程だということは、政岡が以前何かの話の際に言っていた気がする。
伊田野と言えば、彼は半年ほど前に長く同棲していた彼女と結婚したらしい。「式は挙げておらずただ入籍をしただけだ」と、以前本人が政岡に話しているのを横で聞いた覚えがある。
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