2.そして、運命の歯車は動き出す

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 「電気つけな目え悪くすんで自分……」と政岡はため息混じりに玄関口すぐ横の蛍光灯のスイッチを押した。玄関が明るくなった。すると不快感をあらわにした政岡の顔が俺の目に飛び込んできた。その瞬間俺は自らの身の危険を察知した。無意識に手足が震えだし心臓の鼓動が速くなった。  「エヘヘッ」と、俺はとりあえず愛想笑いを政岡に向けた。すると彼の顔の表情は緩んでくれた。そして政岡は笑顔になった。俺はそれを見て安堵した。  「前から気になっててんけど、お前、両手の人差し指立てながらいっつも何をニヤニヤ考えてんねん?」と政岡はほくそ笑んでいる。  俺は彼の質問に対し思わず動揺を抑えられなかった。なぜならどこからどう説明すれば良いか分からないからだ。  心臓の鼓動はどんどん速くなる。激しくなる手足の震えを悟られないように、俺は必死に自らのお尻の両側の筋肉を強く鷲掴みした。少し痛みを覚えたが俺は決して力を緩めなかった。  「あ、いや……作業の、効率の……ンー……」俺は思い付く限りの誤魔化しの言葉を必死に吐き出した。  「あ? ま、ええわ。タイム・カードはよ押しときや。せっかく早く来てんのに遅刻になったら目えも当てられんで……」と政岡は男子更衣室の方へと歩いて行った。  「エヘヘッ」と、俺はとりあえず彼に再び愛想笑いをしつつお辞儀をした。何とかその場はやり過ごせたようだ。  再来週の日曜日、まさしくその日はエックス・デーだ。  女と戯れるなど、魔界の神あるいは審判者としての威厳を保つためには、あまり相応しい行為とは言えない。だがしかし、人間界の女を学ぶことも知識の幅を広げるには必要不可欠な行為。  この日何としても比嘉絢香と心の距離を限り無く縮め、そしてあわよくば、その周りの女たちをも俺様の魅力の虜にしてやろうではないか。 俺は心の高揚を抑えつつ、タイムカードの出勤記録のために事務所へとゆっくり歩を進めたのだった。
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