3.脅威! 影からの刺客!

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 「おいシゲル! お前まだ着替えてんのか?」と政岡は俺を見るなり怒鳴ってきた。そして「鈍臭いやっちゃで……」と吐き捨てて深い溜め息を吐いてから自分のロッカーの前で作業着を脱ぎ始めた。  伊田野を見ると、彼は俺の顔を見ながらニヤニヤと笑っている。しかしそんな彼に対し俺は一切腹が立たなかった。  腹立たしさというよりも、伊田野には恐怖心が芽生え始めた。独り言の内容を実は全部聞かれていて、その内容を会社で言いふらされるのではないかと不安になった。  しかしどうすることもできない俺は、とりあえずその場を取り繕うことを試みた。  「エヘヘッ」と、俺は愛想笑いで頭を掻きながらその場にいる二人に軽くお辞儀をした。伊田野は問題なしとして、政岡はとりあえず激怒する様子はなさそうだ。俺は安堵した。  それからしばらくして全員が着替え終わると、俺たち三人はタイム・カードに退勤を記録しに事務所へと向かった。  まず最初に政岡がタイム・カードに退勤の記録を行った。時計の付いた機械の天辺にある細い横長の穴に、細長い厚手の紙のカードを差し込めば自動的に出勤・退勤のいずれかの時刻がタイム・カードに記録される。  政岡が終わると次は俺の番だ。いつものように俺は慣れた手付きでカードを機械に差し込んだ。  ジジッ、とトナーがカードに打ち付けられる音がして記録は完了した。そして俺はカードを手に取り時間を確認した。  (五時五分、問題ない……)  カードを所定の場所に戻そうとしたが、退勤記録がちゃんと記録されたかどうか不安になり、もう一度記録された時間を確認する。  (五時五分、問題ない……)  今度こそカードを所定の場所に戻そうとしたが、やはり俺は不安になりもう一度記録された時間を確認した。  「はよせえや!」と突然俺の脳天に強い衝撃と痛みが走った。政岡に頭を平手で叩かれたようだ。  俺は驚きのあまり思考が停止した。心臓の鼓動は弾け飛びそうなぐらいに激しくなった。無意識に手足も震えている。頭から血の気が引いていくのを実感する。
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