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辛いって、
もう何も見たくない。もう何も聞きたくない。もう何も知りたくない。
何で世界はボクに優しくないんだろう。ボクは何もしていないのに。
そういう思いを何度もしてしまうのに、なんでまたボクは外へ出るんだろう。
社を開けて、外に出る。今日は夏祭り。人間がたくさんいる。
社の前で、人間がたくさん手を合わせている。今年も楽しい祭りになりそうだ。
人が来ないような場所に来て、ボクを人間にも見えるようにする。見た目は小学生くらいの男の子だ。
いつもと同じようにお祭りをまわる。たこ焼きにりんご飴に金魚すくい。
遊んでいたら、いつの間にか九時を過ぎていた。もうそろそろ帰ろうと、変身した時と同じ場所へ向かう。すると、女の子が一人、座って泣いていた。
何事かと思って、声をかけてみる。
「きみ、どうしたの?なんで泣いてるの?」
「えっとね、転んじゃったの」
「あ、血が出てるね。ちょっと待って」
そう言ってボクは傷を治してあげる。実はボク、ここに住んでる神様なのです。だから、こんなこともできちゃうわけです。
「すごーい。痛くなくなった」
「すごいでしょ?ほら、もう危ないから帰りなさい」
「それはそっちもだよ。神社出るまで一緒に行こう?」
「わかったよ」
「自己紹介がまだだったね。私はね、結川咲楽。花が咲くの咲くに、楽って書いて咲楽。咲楽って呼んでね。君は?」
「ボクは──。ねえ、咲楽は何て呼びたい?ボクの名前は企業秘密だから」
実はボク、名前がないんだ。だからいつも決めてもらってる。ほんとはその決めてもらったやつをずっと名乗ればいいのだと思うけど、その名前は呼ばれるたびに辛くなるから──。
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