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それは、タコの形の宇宙人と、いつもセットで描かれている乗り物だった。
UFO。未確認飛行物体。空飛ぶ円盤。
そういう名前で呼ばれ、子供のころから絵本でもアニメでも、数えきれないくらい彼が見て来た、あのころっとした鍋のような、おなじみの丸い形。
そのUFOが今、彼の部屋の前にある庭に突き刺さっている。
目のくらむような眩い光を周囲に振りまきながら。
「うむ。むろん、これは夢だ。現実にこんなことがあるはずもない」
彼はカーテンを閉めようとしたが、そのとき、庭に突き刺さっていたUFOのドームのところが、パカッと上に開いた。
その中から銀色に輝く何かが、降り立つというよりも、地面にドサリと落ちるような感じで、UFOから出てくる。
丸い半透明のヘルメットに、複雑な機械がたくさん装着された動きにくそうなスーツ。まさしく彼の想像するとおりの宇宙服だ。
彼は期待しながら、その宇宙人を見守った。
夢だと自覚すると、目の前の不思議な光景を楽しもうと思う余裕が出てくる。体のだるさも、足の裏の冷たさも、もうどこかに飛んでしまっていた。
ヘルメットの奥に宇宙人の顔は見えないが、この展開では当然、脱いでくれるに違いない。
あの中からは何が出現する? タコの宇宙人か、それとも――。
半透明のヘルメットが微かに震え、それは一瞬にして手品のように消え去った。まるでシャボン玉がパンと弾けたようだった。
へえ、便利だな、と感心する間もなく、そこから現れた宇宙人の顔を見て、彼は息を呑む。
「タヌキだ……」
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