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ヘルメットが消えた後にあったのは、どう見てもタヌキの顔だった。
茶色の毛の中に、パウダーをはたいたように混じる白い毛。
黒の大きなラインで縁取られた二つの目は真ん丸で、黒いビー玉のようだった。
頭の上からは猫よりも短い、しっかりとした三角の耳が突き出ている。
そして、UFOほどではないが、そのタヌキの顔自体も、薄い光を放っているように見えた。
「何でタヌキなんだ……」
中からタコの触手が伸びてくるとか、熱々のたこ焼きが出来上がっているなどの突飛さは求めてはいなかったが、せめてイカとか、キツネとか。
「まあ、夢だからな、僕の。タヌキが出てくる意味は理解不能だが。深層心理の現れということか」
宇宙服を着こんだタヌキ、もといタヌキの顔を持つ宇宙人は、じっと彼のほうを見つめた。
つぶらな黒い瞳と目が合う。UFOから放たれる光がその中に映っていたが、目の黒さは、はっきりとわかった。
「僕はもう寝るよ。明日、いや、もう今日になるな。早起きして、行かなきゃならない所があるんだ。メルヘンな夢は、もうおしまいだよ」
彼はそう言って、テーブルをちらっと振り返る。
そこには彼の名前が印刷された紙の袋が、束になって置かれていた。
それを確認した途端にまた、だるさと足の裏の冷たさがぶり返してくる。
「じゃあね」
彼はカーテンを閉め、何か言いたげな表情のタヌキ宇宙人の姿を消し去った。
「薬、何か副作用が出るのかな。そんな話も聞かなかったが」
彼は再びベッドに戻り、体を横たえる。
まだ天井には扇形のストライプの線が走っていたが、彼が眠りに就くころにはそれは消滅し、部屋は静かな闇に包まれた。
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