攻守交替かくれんぼ

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「さっき言った差とか分かんないとこって、技術もあるけど感覚なんだよな。今日も仕事で色々言われてさ、俺は成長してんのかとか思ってて。おまけに寝過ごして最悪な気分だったとこで椎名に会って、嬉しかった」  相馬は息を吐いた。それはため息で、さっきは見えなかった光の影だった。 「変わってないんだなって思ったら、あんな感性があったらいいのにって、椎名が羨ましくなった」  苦笑を浮かべた相馬の顔は、初めて見るものだった。届けられた言葉は僕にとって光で、どうしたらいいのか分からないほど嬉しくて、でも間違いなく相馬自身に向けられた笑いが僕の胸を締め付ける。 「僕は、相馬が羨ましかったよ」 「……え」 「ていうか、今も羨ましい」  ぽかんとした相馬に、こんな状況で笑いそうになってしまった。あまりにも驚いた顔をするからそれで落ち着くことができて、僕が今まで見てきた、今でも見ている光の、その光源の姿が初めて見えた。相馬が隣にいるのだと思った。  僕は言葉を探して深呼吸をする。  隣に見つけた相馬に、ちゃんと光を放っているのだと教えたい。少なくとも僕はその光を見ていたのだと、今も見えているのだと。 「相馬はちゃんと意思があるから。仕事のことだけじゃなくて、学校でもそうだった。やりたいこととか、考えとか、自分が思ったことを言葉にするのを迷わなくて、行動も起こせる。自分のためとか誰かのためとか色々だったけど、意思を持った上で動いてるんだって思った」  相馬が見せた表情の理由が、少し分かる。  だって相手のことを話しているのに、同じくらい自分のことを話している。これが自分の弱さなんだと言葉にするのは怖い。曖昧にしてきたそれが、確実に形を成して目の前に現れてしまう。
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