攻守交替かくれんぼ

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 大学を選ぶ時のように第一志望はなかった。この会社でこういう仕事がしたい、これをするためにこの会社に入りたい。そんな立派な動機もなく、資格に限定されない職業の中で少しでも興味があったもの。勤務地とか休日とか給料とか、あとは現実的と言えば聞こえのいい条件を考慮した。  こんなのはたぶん僕だけではなく、どこにだって転がっている話。けれど後ろめたくなるのは、動機や目的のある人を羨ましいと思うから。自分にはできないからすごいと思う。目的なんてあとで見つかる、仕事を始めてから価値を見出す。そんな話も耳にするけれど、自分がそうなれるかはまた別の話。  心を代弁するように、盛大な息を吐いて電車が止まった。何度も降りた駅。何度も乗った駅。  数人の学ランが乗り込んできて、僕の前のつり革を占領した。古典的な黒い服は懐かしく、知りもしない後輩に親近感を覚えた。  降りて行った人を背に、電車は重い腰を浮かして動き出す。  相馬はどうしているだろうか。  さっきまで見ていた夢をぼんやり思い出した。多くの同級生より一足も二足も早く社会人になったであろう相馬が、今どうしているか僕は知らない。一昨年開催されたクラスの同窓会に相馬はいなかった。伝え聞いた話では、卒業と就職に向けて忙しかったのだそうだ。
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