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SNSをたどればどこかで相馬にたどり着くのだろうが、僕はその手を動かせないでいる。光の速度は早い。あの時たまたま同じ場所にいただけの相馬はもう僕から随分離れて、手の届かない場所にいる気がした。
目の前で飛び交う笑いは青々として、あったはずの親近感さえ遠ざかる。いたたまれずに目線を移すと、車両の端の方に座る青年と目が合った。
あれ。
青年がばっと顔をあげる。すぐに立ち上がって迷わずこちらへ歩いてくると、座席の横から僕を引き抜いた。
「椎名じゃん! 久しぶり。今から暇?」
「い、ちおう」
「よし」
タイミングよく電車が止まる。そのまま腕を引かれてホームに降りると、二人分の身体を排出した電車が、これで終いとばかりに口を閉じた。
「就活中?」
「内定式」
「おお、おめでとう」
「ありがとう」
ホームの階段をおりていく相馬は、まるでつい昨日まで会っていたかのように普通だった。改札をすり抜けた相馬に続いて、僕は慌ててカードを改札機に押し付ける。慣れた電子音は、三割増しで間の抜けた鳴き声に聞こえた。
「相馬は、なんで。ていうかここ、降りる駅じゃない」
「知ってる。俺も」
「ええ?」
なんで。言いかけて、相馬の家は反対方向だったと思い出した。駅で見かけても、それは反対側のホーム。同じ電車に乗った記憶はない。
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