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「仕事?」
「の帰りに寝過ごした。ついさっき起きて、どうしようかと思ってたんだよ」
「……そっか」
カーキのチノパンに柔らかそうな水色のシャツ、手には紺色のカーディガン。四角のリュックは行儀よく背中に収まっている。
「馬子にも衣裳だろ」
思わず見つめてしまった僕に、相馬は笑って足を進める。どっか休めるとこ知ってる? と続けざまに聞かれて、似合ってるという言葉は喉を滑り落ちていった。
スマホをいじっている相馬は、四年前よりずっと大人になっている。身長はわずかに伸びただろうか。顔からは丸みが抜けて、幼さがなくなっている。けれどそれはただ久しぶりの効果だけではなく、相馬と僕で確実に積み上げてきた時間が違うからだろう。
相馬は別人になったわけではない。笑った表情もまとう雰囲気もあの頃のままだ。
「大学こっちじゃなかったよな」
「うん、明日には戻るよ。卒論とかあるから」
「卒論! 何書くの? 何の分野?」
相馬は器用に会話を続けながら、スマホ相手に顔をしかめた。
「ごめん、ここ何にもないわ」
「うん、薄々気づいてた」
改札は一つ、出口も一つ。ちらりと見た窓口はシャッターがおりて、駅はまさしく乗降車だけを目的としていた。居酒屋とコンビニは見かけたが、少し歩いてみても川と畑と民家が広がるのどかな風景。たぶん車がないと難しい。
もとより田舎の地元で、初めて降りた駅でもこの予想は頭をよぎっていた。
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