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風が吹いて、ふと沈黙が落ちる。
隣で相馬が缶をあおった。
「――好きだったっけ?」
相馬の手に収まっていたのは同じミルクティーの缶。初めて見た気がしたそれに思わず疑問が飛び出る。相馬はきょとんとした顔をした。
散々話して今さら。どれだけ俺のこと知ってんだよ。瞬時に湧き上がった妄想の返事に、変なことを言ったと頭が空回る。
「バレた?」
しかし相馬は隠しごとがバレたような、バツの悪い顔で笑った。
「椎名、よく飲んでたじゃん。だからちょっと真似してみようかと思って」
「なんで」
僕の真似なんか。
続きそうになった言葉は寸でのところで飲み込んで、苦笑を混ぜて冗談に笑う風を装う。相馬の表情の奥に何かが見えた気がしたが、それを捕まえる余裕はなかった。
「真似なんかしてもいいことないよ」
「あるかもしれないじゃん」
相馬は真面目な顔をしていた。僕の仮面はぱかりと剥がれて、また沈黙が落ちる。僕はたぶん呆気にとられていた。
二秒か、三秒。あーと呻きながら目をそらして、相馬は短い髪をわしわしとかき回した。またバツの悪そうな顔で笑って、諦めにも似た息を吐く。
「一年の時にさ、美術の授業でペアになったの、覚えてる?」
「――うん」
そんなこともあった。風景画の課題で、描くあいだは同じ場所にいるように、勝手なことをしないようにと一応で組まされただけのペア。誰かと描くのが苦手な僕は相馬に頼んで、ほとんど一緒にいることはなかった。
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