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「あの時、初めに見せてくれたじゃん」
「だったね」
美術室に帰る手前、互いの絵を見せあった。確か、すげーなとかそんな感想をもらったと思う。
「あれ見た時、すげーって思った」
「……ありがとう」
相馬の横顔は夕日だけでない色に染まっていた。つられてしまいそうで、僕は相馬から目をそらす。あの時も相馬はこんな顔をしていたのだろうか。思い出そうとしたが、僕の記憶には残っていなかった。たぶん急な出来事にとまどって、相馬の顔を見られなかったのだと思う。
これはきっと、あの時ではできなかった話なのだ。
「だって同じとこ見てんのにさ、全然違うの。鮮やかで、あったかくて、誰もいない絵なのになんていうか――ちゃんとその絵の奥に人が生きてるっていうか。椎名にはこんな世界が見えてるんだと思ったら、すげーなって」
隠していた宝物の箱をあけたように、自慢と、内側を見せる恥ずかしさで、相馬の声はきらきらしていた。
「だから俺、実はこっそり椎名のファンだった。勉強もサボらずにやることやって、それでずっと描いてたじゃん。大っぴらに見せたり話したりもしないから普段は分かんないけど、でもコンクールとか出してたの見ると、ちゃんと向かい合ってんだって分かんの。大事にしてるんだろうなって分かった」
じわりじわりと、僕の胸が温度を持つ。心臓がばくばくと動きを速めて、嬉しいのと恥ずかしいのと、なんだかよく分からない感情が身体中を駆け巡った。
そしてそれから、その言葉は僕の内側を照らし出した。まばゆい喜びも、でもそれは何かになれるような才能じゃないんだという皮肉な卑屈も、同じくらいによく見せた。
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