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雪は音を吸う。
静かな世界に無粋な明かりはなく、あるのは白々とした月明かりだけ。障子を通して差し込む青白い光の下、二人用の布団でまぐわう姿は妖艶であり、微かに響く声は耳に心地よい色香を届ける。
真新しいシーツをかけた布団の上で身をくねらせる守谷は着物の前を少し大きく開くだけ。その袷から入り込む須田の手は大きくて、少し硬く肌を滑る。
勝手知ったる体を懇切丁寧に触れるのは、優しいという以上に羞恥を誘っている。「ここが好きだろ?」「ここが気持ちいいんだろ?」と無言のまま問われているようでいたたまれない。
だがそれすらも興奮に繋がるのだから、守谷も十分に好き者なのだ。
「慎一郎さん……口が寂しい……」
「あぁ、それは済まない事をしたね」
薄らと涙を浮かべた守谷の唇に、優しい口づけが落とされる。触れて、うっとりと解れた所で舌が入り込み、絡み取られてゆく。腹の底が熱くなってしまう。肌がより敏感になっていくのを感じる。
歯の裏側も、舌の根元も好きだ。気持ち良くてゾクゾクして、欲しくて体をすり寄せてしまう。徐々に期待に膨らむ昂ぶりの熱も感じた。
「ぷはぁ、はぁ……慎一郎さん」
「次はどこが、寂しいのかね?」
ふわりと浮かべる笑みの意味を、守谷は正しく理解している。
須田はこうして守谷自身に言わせるのが好きだ。そして、守谷の欲しい場所をちゃんと攻め立ててくれる。そのせいでこの体は須田の手や唇を覚えてしまって、期待だけでいやらしい反応を見せるようになってしまった。
そして厄介な事に、守谷自身こうした行為を好いているのだ。
「乳首が、寂しいのです。優しく触れるばかりでは足りません。もっと、攻め立てて欲しいのです」
「例えば?」
「貴方の指と、唇で愛して欲しい。欲しくて、少し腫れているのです」
見なくとも、触れずとも感じる。袷から差し込まれた手が周囲を愛しげに撫で、指が乳輪の辺りを捏ねていた。それだけでむくむくと育った嫌らしい乳首が痛む。早く触れて欲しいと要求している。
分かっていてやったのだろう須田が微笑む。満たされているだろう表情は色香に濡れている。
「それと、出来れば着物を脱ぎたいのですが」
「それはダメだよ、恭司くん。体が冷えてしまう」
「それを言えば慎一郎さんだって。貴方は既に脱いでいるのに、私ばかり着ているというのもなんだか……逆に恥ずかしいのです」
須田は行為の前に脱いでしまっている。細いがきっちりとついた筋肉を惜しげもなく晒している。
彼の体に比べればかなり見劣りはするが、守谷だって恥ずかしい体をしているわけではない。34という年齢のわりに腹は出ていないし、人嫌いで外に出ていないから日焼けもしていない。シミもないし、肌はもっちりとしているはずだ。
だが須田はこれには応じてくれない。彼は着衣をあえて脱がせず一部乱す事に興奮するようで、全て脱いでしまうのは守谷が前後不覚になるほど快楽につけられた後のことだ。
「このままがいいのだけれど。それにこのままでも十分」
「ひゃう!」
「君を満足させられるよ」
指が突然乳首を強く摘まんだから、痛みと共にジンと痺れるような気持ちよさが走ってビクリと体が震える。
これを切っ掛けに、指は容赦なく胸を攻めあげた。やわやわと揉んだり、指先で押し込むように転がしたり、爪で引っ掻いたり。
違う種類の気持ちよさがその度に流れて、守谷は耐えるようにシーツを握った。大きく開けられた着物の前から、自分の胸が丸見えだ。嫌らしく肥大し、乳輪ごと持ち上がった乳首は男のものとは思えない淫靡さと色合いだ。
「恭司くんは、少し痛いのも好きだったね」
「あっ、好き……あぁぁ! 好きぃ!」
強く引っ張られながら乳首をつまみ上げられる。ジンジンと痛むそこを今度は癒やすように口腔に含まれ、舌で優しくねっとりと舐めてくれる。この対比が凄い。背骨が甘く痺れて、すっかり立ち上がった昂ぶりからトロッとした透明な液が玉を作って着物に吸い込まれていく。
「あぁ、嫌らしい俺好みの胸だ、恭司くん」
「本当に?」
「あぁ、本当さ」
広がるのは「嬉しい」という感情だ。彼好みの体になっている。ならばずっと、一緒にいられる。
守谷は摺り合わせるように閉じていた足を開き、自ら少し袷を崩した下半身を晒した。
今や立派に育った昂ぶりは反り返り、涎をこぼして濡れそぼっている。顔を赤くしながらも指で着物を摘まんで更にそこを強調させると、守谷は須田を見上げた。
「ここが、疼いて熱くてたまりません。慎一郎さん、慰めて頂けませんか?」
「勿論だよ、恭司くん。では後で俺のも慰めてくれるかい? 君の色っぽい姿を見ていたら、興奮が冷めなくてね」
「あ……」
須田の下腹へと視線を向けると、堂々と大きく血管を浮かせた逸物が目に入る。それだけで恍惚だ。あれを口に含み舐め回す事が出来るなんて、頭の中まで犯されてしまいそうだ。
「どうかな?」
「勿論、そうさせてください」
「ふふっ、有難う。だがまずは君を気持ち良くさせよう。張り詰めてしまっているね、痛いだろ?」
体をずらした須田が、手で根元を固定する。そして躊躇いもなく口腔に全てを収めてしまった。
柔らかい頬の内側が擦れる。舌が多少被ってしまっているその際を舐める。鈴口を舌でほじられて、たっぷりの唾液濡れになっていく。
たっぷり濡れた皮が、彼の唇と舌で優しく剥かれていく。僅かに走るピリリとする痛みに耐えると直ぐに、それを上回る快楽が待っている。剥かれて晒された部分を舌が舐め、唇が引っかけてくる。腰が震え、こみ上げる射精感に足が震えた。
「いいんだよ、イッてしまって。耐える事なんてない」
「分かっているのですが、後一押しが……」
「仕方がないね」
目だけで苦笑する須田が改めて昂ぶりを根元まで咥える。それと同時にヒクリと動く後孔に触れ、やわやわと一本指を差し入れてきた。
この指は守谷の弱い部分を全て知っている。そしてすっかり雌と化した尻穴は潤滑油などなくても指の一本くらいは余裕で飲み込めてしまう。
指が中を進み、くにりと曲がる。その指先がコリッとした臓器に触れた瞬間、目の前がチカチカして勝手に腰が跳ね上がった。
「やっ、やぁ! 二つ同時はだめ! 頭真っ白になります!」
「構わないよ、恭司くん。君はとても可愛いから」
「あっ、はっ、やっ……くっ、るぅ! イクぅぅ!」
気持ち良く駆け上がる快楽にクラクラして、頭の中がおかしくなりそう。切迫する射精感に堪え性のない守谷はあっけなく陥落し、須田の口に全て出してしまう。腰が押さえられているから体が跳ねて、その度に濃い白濁を吐き出している。
「ん……濃いね。前にしたのが3日程前だったかな? 自分でも、抜いていなかったのかい?」
しっかりと出したものを味わい飲み下した須田が、こちらをじっと見る。探るような視線に、守谷は少し恥ずかしく頷いた。
「一人でしても、気持ち良くありませんから」
何よりもう、前を弄るだけでは達することができない。後孔を弄っても欲しい部分に届かなくてもどかしくなってしまう。だからといって玩具を使うほど性欲は強くない。そうなれば、須田を誘う方が満足も幸福も得られる。
見れば須田は驚いた顔をして、次には恥ずかしく口元を手で覆う。照れたときに見られる仕草だが、瞳は一層雄の光を宿したように思えた。
「あまり煽ってはいけないよ、恭司くん」
「そうですか? 私はもっと貴方の雄の顔が見たいのですが」
「欲求不満かい?」
「寂しさを埋めて欲しいのです。寒いと貴方が恋しくなる。一分の隙もなく、寄り添っていたいのですが」
「まったく、手の悪い。だが今日は、誘惑されるとしよう」
上半身を起こした須田が胡坐を搔く。その股ぐらに鎮座する雄々しい逸物は、早くしろと守谷をせっつくように脈動している。
「咥えてくれるのだろ?」
「はい」
四つん這いになり、雄々しいそこに傅いて、守谷は丁寧に筋を舐め、先端を口腔へと導いていく。柔らかな頬の内側で先端を擦ったり、舌で縁をなぞったり。上下に動かすと溢れる唾液が纏わり付いてヌラヌラと照り、淫靡な水音が静かな世界に響いて聞こえる。
「美味しそうだね、恭司くん」
「んっ、ぷはぁ……美味しいですよ」
「腰が揺れている」
「腹の中が熱く痺れてくるのです。貴方の匂いと味を体の全てが覚えてしまったのですよ」
「なるほど。それでは、責任を取って慰めてあげないといけないね」
須田の長い腕が伸び、着物を器用にたくし上げて尻を露わにさせ、窄まりに触れる。それだけで後孔は欲しそうに蠢き、腹の底が欲しいと疼き出した。
「あっ、あぁ……はぁん……」
「口は、もう満足かい?」
「いえ。あっ…………むぅ、んっ、ふぅ……」
手が一度離れ、次に触れた時にはぬるりとしたぬめりが後孔を広げる。椿油の匂いがする。それがクニクニと中を動き、広げ、出入りしていく。
後ろを犯され期待に腰が震え、口の中から鼻孔まで彼の匂いに染まって、頭がぼやけてきた。耳の側に心臓があるみたいにドクドクしている。きっと今、とんでもなく厭らしい雌の顔をしているに違いない。
「あんぅ! あぁ、ダメです……また、イッてしまう」
「欲しくなったかい?」
「欲しい……もう、後ろがヒクついてたまらない」
須田のものを離した守谷はくるりと体を反転させ、小ぶりな尻を突き出しより大胆に着物をたくし上げる。そして自らの指で後孔を僅かに広げてみせた。
「ここに、貴方の熱が欲しい。もう、限界です」
「まったく、堪え性がないよ恭司くん」
「お嫌いですか、慎一郎さん?」
「残念ながら、誘われたいよ」
苦笑した須田が香油を足して指に絡め、丹念に指三本で中に塗り込む。優しさなのだが、もどかしい。これにだって追い上げられてしまう。彼の指を締め付けているのが自分でも分かるのだ。
「よし、いいかな。力は抜くんだよ」
指が抜け、須田が枕元の小さな飾り棚の抽斗を開けようと手を伸ばす。その手を、守谷はやんわりと止めた。
「恭司くん?」
「今日は直接注いでください」
「だが、腹を壊すかもしれないよ」
「かまいません。腹が冷えるのです。貴方の熱で暖めてください」
振り向いて目を見て頼む守谷を見る須田が、ゴクリと喉を鳴らす。そして手を引っ込めた。
「言ったのは君だ。後で抗議しないでくれよ」
「はい、勿論」
守谷の細い腰を須田がしっかりと掴み、熱い肉感のある切っ先がぴったりと後孔へと宛がわれる。それがじっくりと狭い肉を割り開いて身を犯す僅かな痛みとこみ上げる強すぎる快楽に、守谷は歓喜の声を上げて受け入れた。
熟れた肉襞が形まで覚え込むように須田を包み込み、やわやわと誘い込む。硬く血管の浮いた逞しい逸物が内を出入りする度、前立腺を擦り上げていく。
なんたる多幸感だろうか。快楽に串刺しにされ、突かれる度に精をだらしなく漏らしているのに、全て満たされていく。翌日の怠さなどこの時はまったく頭にない。
「くっ……今日は随分と情熱的だ。食われてしまいそうだよ」
「気持ちいい……あっ、奥が……あぁ!」
肉のぶつかる音。奥を抉るように切っ先が当たって目眩がする。上半身が崩れて、敏感な乳首がシーツに擦れてそれすらも気持ちがいい。凄く締まっている気がする。抜けていくのを嫌がるように引き留めて、その度に須田から耐えるような声が漏れている。
「恭司くん」
「慎……一郎、さん!」
激しく攻め立てられて、目の前が真っ白になっていく。腹の底から波が押し寄せてくる。それを察した須田が守谷の昂ぶりを握り上下に扱き、同時に最後と言わんばかりに最奥を突き破らん強さで突き上げるものだから、守谷は高い嬌声を上げて最後の精を吐き出した。
それでも止まらなくて、プシャァと透明な液が厚い布団を水浸しにしてしまう。射精感とは違う、漏らしてしまったような羞恥と開放感に「あ、あ、あ」と頼りない声を上げてしまう。
同時に腹が熱くなっていく。まるで孕ませようとしているような勢いと量が腹の中に出されている。ブルッと震えた須田の雄々しい表情を振り向いてしっかりと確かめて、守谷の中から寂しさが去っていった。
「気持ち良かったみたいだね」
「はい、とても……ですが、布団が大惨事です」
「はは、仕方がないさ。隣の部屋に違う布団を敷いてある。君はそちらで先に寝ていなさい」
熱い肉杭が抜けてしまうと、ぽっかりと孔が開いてしまう。そこから折角注がれた熱がこぼれてしまうのは寂しい。一滴でも多く残そうと尻穴をすぼめると、須田が指でそこをこじ開け中を捻るようにして絡めて外に出してしまう。
「あぁ……折角の子種が」
「腹を壊すからダメだよ」
「……また、注いでくれますか?」
懇願の目を向けると、須田は目を丸くして、次に苦笑して頷いた。そして約束の甘い口付けを、守谷の唇に落とすのだった。
END
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