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エピローグ
「……で、ハッピーエンド。脚本、曾川茂……って感じかな。覚えてない?」
「…………」
課長の話に軽い眩暈を覚えた。お陰ですっかり思い出してしまった。
「……課長、脚本じゃなくて脚色ですよね?」
「ん?」
まず、課長の語り口調からして違うし。
自分で脂が乗り切ったなんて言わないでください!
快諾した覚えはないですよ ?!
無理矢理でしょうが!
身を屈めて暖簾をくぐったって ?!
……それはちょっと可愛い嘘だけど。
俺は夜を楽しんでた訳じゃない!
なかなか潰れないあんたに焦ってたんですよ!
そもそも菊門とか双臀、臀部、両刀遣いとか表現が古臭いっすよ……。
なんてツッコミ所が満載ななんちゃって官能物語。
つか、久しぶりに誰かが訪れたって言ったけど、先週、遠藤のやつを連れ込んだでしょ? こないだ遠藤に泣き付かれたし。
俺は頭を抱えてシーツに突っ伏した。と、すかさず課長が背中に乗って来る。
「佐々木くーん」
「のわっっ ?!」
再び逃れようともがいたが、課長にがっちり組み敷かれて身動きも取れやしない。
「は、離してください !!」
「君に惚れちゃったみたい……」
み、耳に息を吹き掛けるな !!
抗う気持ちとは裏腹に身体から力が抜けて行く。信じられない力で抱き竦められ、それでも不思議な感覚に包まれた。
暖かい……、何故だか穏やかな気持ち。
課長の身体から発せられるのは加齢臭というよりも、甘い日本酒の大人な香りだ。
まったくもう……。
思わず俺は笑ってしまった。きょとんとした顔で俺の顔を覗き込んで来る課長。
「……俺だけにしてくれるなら考えてもいいっすよ」
「ん? 何を?」
……へ?
課長のその返事に、今度は俺が首を傾げた。
そう言えば、恋人になってくれと言われた訳じゃない。惚れたかもと言われただけで……。
「……帰ります」
「ちょ、ちょっ、佐々木くん ?!」
今度こそ俺は脱ぎ散らかした服に着替えて、課長の部屋を後にした。異物感は治まらないし、ケツはひりひり痛むけど、犬に噛まれたとでも思って忘れよう。
それにしても、妙な所を噛まれたもんだ……。
2006/06/06/完結
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