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蛍の光
一匹の蛍が川沿いに生える草の上で羽根を休めていた。いや、羽根どころか生命そのものを休めていたのかもしれない。
いつもなら天を仰ぎ貫くようにしゃんと立っている名もなき草も、生命が尽きかけた蛍の終の住処となるために、その身を蛍の重さに委ね、初夏の夜を照らす三日月のように撓らせ曲がるに至らせる。
一匹の蛍は最期に淡くか細い光を放ちながら、その光と同じように生命を終えた。
生命を終えた蛍は草の上に留まる力を失い、ぽとりと真っ逆さまに川の水面へと落ちて行った。
蛍は生命を失い、川の中へと落ちて波紋を広げた。川の中に落ちた蛍は後はそのまま川の中でその身を朽ち果てるか、魚か何かに食べられるのみ。
さて、広がった波紋の行く先には川沿いには苔が生えていた。その苔は波紋を放った蛍が卵を産み付けたことで淡く光っている。その数、実に五百を超える。
そう、蛍は生命最大の目的である遺伝子の伝達を成し遂げた上で、寿命を迎えたのである。
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