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三
ティーカップを持つ優美の手が止まる。
「優美さんなら、家のこともテキパキしてくれそうだし、あなたも安心ね」
健太の母がにっこりと微笑む。
「あ、うん……」と健太。
—— え? わたし、仕事やめるなんて言った覚えない!
優美の視線を感じ、健太が目を逸らす。
—— もしかして、専業主婦になる前提で話が進んでる?
健太の母が切り出す。
「それで優美さん、仕事はいつまで続けるおつもり?」
「あ……まだそこまで具体的には……すみません……」
「あら、そうなの……。お式のこととかいろいろ、忙しくなるわよ」
「はい……」
「優美さんに余裕ができれば、その分健太も仕事に集中できるわよね。健太が好きな味付けなんかも覚えてほしいし。ねぇ、健太」
「あ、うん……」
—— ちょっと、なんで否定しないのよ! 健太!
—— でも、ここで急に否定したら雰囲気ぶち壊しだし、どうしよう……
「……すみません、お化粧室に……」
頭を整理したくて、優美は席を外した。
トイレの個室に座り、優美は自分に落ち着けと言い聞かせた。
健太との交際は三年になるが、優美が仕事好きなことは、健太も理解している。
むしろ、そんな優美が素敵だと言ってくれていた。
プロポーズをしてもらった後に、子どものこととか、将来について話したときも、産休や育休を取りながら、家庭と仕事を両立させたいと話し、健太も同意してくれていた。僕も協力するよと。
—— だから結婚決めたのに! それが、なに? さっきのは!
考えるほどに、怒りが込み上げてくる。
本来ならば、今すぐにでも健太と二人で話し合うべきだ。でも今日は、初の両家顔合わせの場。それは出来ない。
トイレにこもってすでに十分は過ぎた。整理がつかないまま、優美は席に戻った。
その後も一時間ほど、挙式に向けて話が進んだが、優美はほとんど上の空だった。
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