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五
翌朝優美は、いつもの日曜日よりも朝寝坊をした。昨夜は寝付きが悪かったのだ。
何度か生あくびをくり返す。
ベッドに横たわったまま、枕元をまさぐりスマホのコードを引き寄せる。
健太からLINEと着信が入っていた。
着信時間は深夜の三時過ぎだ。健太も眠れなかったのかと、ちょっと言いすぎたかなと、しゅんとする健太の顔が浮かんだ。でも、すぐに連絡する気にはなれない。
結婚しても仕事を続けることは、優美のこだわりだ。それを知っていながら、ないがしろにした健太を、優美は許せなかった。
母の芳枝や健太の母のような専業主婦を、否定する気は無い。むしろ、自分には到底無理なことに幸せを見いだせる女性らしさを、羨ましいと思うことさえある。
ただ、専業主婦しか知らない母は、あまりに世間知らずで、恥ずかしいと思うときもある。
社会情勢には疎いし、あまり関心も無いのだろう。専業主婦が当たり前の時代じゃなければ、職に困っていたんじゃないかとさえ思う。
こんな風に母を見下している自分に気づいて、自分の意地の悪さに閉口することもあった。
自分が仕事を続けることにこだわるのは、母へのアンチテーゼかも知れない。そうした自覚もある。夫の収入だけが頼りだと、もし、離婚でもすれば、とたんに経済的に困窮する。
そんな惨めな思いは、自分はゴメンだ。男に頼らなくても一人で生きていける、経済力と生活力は身につけておきたい。
布団をかぶったまま考えを巡らせていたら、いつの間にか一時間が経っていた。
優美は勢いよくベッドから跳ね起きると「よし!」と気合いを入れて、LINEを打ちはじめた。
母の妹の遙叔母さんに、愚痴を聞いてもらおうと、思いついたからだ。
優美は幼いころから遙おばさんが大好きだ。母とは真逆のキャリアウーマンで、いわば優美にとってのロールモデルだ。
コーヒーを煎れながら、優美は遙おばさんにLINEを送った。遙おばさんも偶然にも、優美に会いたいと思っていたと返信があり、夕方から自由が丘で、夕飯を食べることになった。
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