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真っ黒でごめんなさい。
嫌だなぁ...。
そう思ったけれど、自分がすごく小さい人間のように思えた。
それを誤魔化すように、強がる僕の中は、ドロドロ真っ黒な塊だ。
「信也、今日、一緒に帰れなくなった、スマンっ!」
すまなさそうな顔で言ってくる彼の背後で、こっちの様子をチラチラと伺ている人たち。自分たちを優先した彼だから、お前より自分たちの事が大切なんだって言っているようで、あまりいい印象はもてなかった。
でも、僕はそんなことを彼に告げるつもりはない。
「いいよ、別に約束していたわけじゃないし…。」
笑って言ったけど、彼は僕の顔を見て機嫌を伺ってくる。
見て欲しくない。
こんな僕を好きな君に見て欲しくない。
ー!
「ほら、待ってるんでしょ?行ってきなよ」
そう言って、僕はとりあえず彼のいない場所に行きたかった。
こんな醜い感情を持っている僕をこれ以上見て欲しくなかった、ただそれだけだった。
ー!!
「待ってっ、信也っ」
グイっと引き寄せられ、彼の腕の中にいた。
いきなりの事で頭が働かない。
彼は、わざわざ、僕の顔を覗き込むようにしてきて、じーっと見つめた後、ふわりと笑ったんだ。
「...やっぱり、やーめた。信也と家に帰るね」
ワザと彼らに聞こえるように大きめの声で。
彼の言葉に慌てている彼らと僕。
それでも、彼は、僕の肩を抱いたまま歩き出していた。
背後で「ふざけんなー」と怒っている声も聞こえる。
「...いきなり何?今からでもいいから早く行きなって。怒ってるじゃん。」
僕は彼に向けてもう1度言った。
「...ヤダ。
今の信也を一人にしたくないって思ったの。」
ー!?
そんなこと、言われたら...嬉しいじゃん。
真っ黒な自分がどんどん小さくなっていく。
「...友達、減っちゃうよ?」
彼の腕に顔を埋めながら真っ赤な顔を隠す僕。
口から出るのは、かわいげのない言葉ばかりだ。
でも、彼が僕を優先してくれただけで、僕の中の真っ黒のモヤモヤは、いつの間にか消えていた。
信也 …素直になれない大学生。人気者の彼に気に入られているので、周囲の友人から距離を置かれている。恋人あり。
彼 …大学生、人気者。信也の恋人。信也を観察し、気付くことを楽しみにしている。
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