「オレ、アンタの事がずっと」

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「オレ、アンタの事がずっと」

「にお……」  名前を呼び掛けて、口を閉じる。  そうだ。弐織(におり)はオレを覚えていないかもしれないんだよね。何度も無駄になった朝食や、鳴らないチャイムを思い出す。  「旧世代体質」さえ影響を受けるようなシステムを使用されて、問題が生じないとは言えないし、もし弐織の言葉が本当なら、「書き換えられた」ことで忘れてしまってもおかしくないだろう。  慌てて口を閉じたけれど、遅かった。  弐織は足を止めて、こっちを向いた。両目に怪訝を浮かべて。 「あなた、誰ですか?」  お約束な言い方かな。記憶喪失もののドラマで何度も聞いた。  ……なんとなく予想はしてたけど、やっぱり痛い。胸がズキズキする。  この痛みを消す事は、簡単にできる。ちょっと端末を操作するだけ。そうすればこの痛みを忘れて、快適に過ごせる。  だけどそれはしない。人から変わり者だと思われるかもしれないけど、他人からどう思われようが、どうでも良い。だってオレは、この痛みを抱えて生きていくって決めたから。  胸の痛みを受け止める。  あの時何もできなかった自分の無力さを理解する。  弐織の手を取る事が出来たかもしれない。もっと早く、弐織のように想いを伝えれば良かったかもしれない。  まだ胸がズキズキと痛むのを感じながら、オレは微笑んだ。  弐織はちょっと不快になるかもしれない。なんせ、今のオレは弐織にとって真っ赤な他人。  それなのにこんな事を言ったらどうなるか。心配だけど、弐織の中では大した跡も残してくれないだろうなぁ。  弐織は国家から支給されるシステムによって、「旧世代体質」を気にせず生活できるようになっている。だから、不快感だって簡単に消せる。  美人で頭の良い彼女さんに「妙な人間に声掛けられちまった」なんて言いつつ、その不快感をシステムで消すんだろう。  ……それならあの時言えなかったこと、言っても良いかな? 結局オレはいつだってシステム頼みなのかもしれない。思わず自嘲する。 「オレは、アンタのことがずっとずっと大好きだった人間だよ」
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