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感情とは操作できるものである
「……おはよ」
半分しか開かない目のまま、どうにかこうにかそれだけ呟けば、あれだけ騒がしかったアラームがぴたりと止まる。同時にオレの眠気は嘘のようになくなった。
今日も快適な目覚め。窓から差し込む太陽の光は心地良くて、爽やかな朝。
うーん、なんて伸びを1つしてから、オレはベッドを降りて、まずは料理マシーンの方に向かう。マシーンが料理してくれている間に洗顔や着替えを済ませる事が出来るし、弐織が来た時に朝食が間に合っていなかったら申し訳ない。何よりそれだと弐織が食事を抜きそうで心配なんすよね。
朝食は洋食を選ぶ。
これは子供の頃からのこだわりだし、今の時代では珍しい「旧世代体質」の弐織のためでもある。
オレには縁がないからどれだけ辛いか分からないけど、「旧世代体質」の弐織は朝に弱い。食欲がなくなる事も珍しくなくて、目を離せばすぐに食事を抜いてしまう。
きちんとバランス良い食事をしてほしいけど、弐織の辛さを思うと無理強いでも出来ない。だからオレは少しでも弐織が食べやすい様にって、「旧世代体質」の事を調べたり、弐織の好物を朝食に用意するようにしている。
たとえばサクサクのクロワッサン。あっさりしたサラダ。あたたかなスープ。エトセトラエトセトラ。
そうやって自分の分と弐織の分のメニューを打ち込んで、洗顔も終えてから着替えのために部屋着を脱いだところで、来訪者を告げるチャイムが鳴ってモニターが起動する。
朝の忙しい時間は余程の急用でもない限り、弐織以外を通さないように設定しているけど、念の為モニターには目線を向ける。弐織じゃない事が100回に1回くらいはあるし、弐織の顔色を確認する目的もある。
と言うか、そっちがメインだ。
果たしてモニターに映っていたのは弐織で、相変わらず顔色は悪い。
目の下にうっすらとクマも出来ている。夜更かししたんだろう。
今日は晴れているけど、明日か明後日から雨も降るみたいだし、「旧世代体質」には辛い朝かもしれない。せめて早く眠れば良いと思うけど、弐織には色々やりたい事があるみたいだ。
「ちょっとだけ待っててね」
モニター越しに告げてから、料理マシーンに追加の注文をしておく。弐織の分に「旧世代体質 朝の不調に効く」、オレの分には「旧世代体質を不快にしない香り」。
うん、これで少し経てば弐織にも食べやすい朝食が出来る。
料理マシーンが追加注文を問題なく受け付けたのを横目で確認しつつ、オレはモニター横のパネルに触れて、弐織を招くためにドアロックを解除した。
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