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弐織の目は壁に取り付けられた装置や、テーブルに置かれた端末に向いていた。
放ったままの端末を手に取って慣れた風に操作しながら、「……もっときっちりした生活が出来る様に組み直してやろうか」なんて恐ろしい事を呟く。
一応結構健康的な時間に設定しているはず。少なくともシステムの影響を受けないからって徹夜で本を読み耽る弐織よりは健康的だろう。……まあ下着姿で弐織を迎えてしまうズボラさは否定できないけど。
オレの生活リズムを司る端末も、弐織には縁のないものだ。
だけど弐織は知的好奇心が旺盛だから、こういったプログラムの仕組みには興味があるみたいで、毎日毎日見ている筈なのに、毎日毎日目を輝かせては、こうやってオレの端末を覗いたり、プログラムの奥深くまで解析したりしている。
お気に入りのおもちゃを手にした様子の弐織を微笑ましく思って見つめながら、オレは料理マシーンが完成を告げた朝食をテーブルに並べつつ、弐織に声を掛けた。
「そんなに珍しい?」
「いや。さすがにお前との付き合いも10年以上だぜ? 物珍しさ、真新しさは感じねぇよ。でも興味はある。これ1つで寝起きの不快感も一切なく、体の不調からも解放されるのか、って」
言いながら弐織が確認している端末は、実はオレ以外がそう簡単に触れるものじゃない。
なんせ大半の人間は、与えられる端末で生活している。今並べている料理だってそうだし、睡眠、起床、健康状態。部屋の空調やインテリア。本棚に並ぶ本。趣味嗜好にも生命維持にも直結するようなシステムだ。
誰しもが自分以外に触らせようとは思わないし、そもそも強固なハラスメントコードで触れない様にしてる。
でも弐織がこうして触っているのは、オレが弐織に対してだけハラスメントコードを設定していないから。
弐織に許しているのは弐織が特別だから。
大切で大好きな幼馴染だから。
だけどそんな感情さえ、オレか弐織がシステムを少しいじれば書き換えてしまう事も可能だ。
そうやってオレ達は嫌な事を忘れて、人への恨みを忘れて生きている。
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