「大洗はいいぞ」

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 神社を後にして車に戻る際に、再度海中の鳥居を見に行くと、海鳥が一羽停まっていた。目視するには遠いため正確では無いが、(くちばし)が黄色く、初列風切羽が黒いことからセグロカモメと思われる。  カモメは海と航海を象徴する鳥であり、溺れ死んでしまった水夫の魂が姿を変えた物だと言い伝えられている。世界中のカモメの個体数を考えるとそんな訳はないのだが、あの日惜しくも亡くなられた方達は今もこの街を、大切な人達の行く末を見守っているはずである。  亡くなられた方達が今の形をどう思うか知る由もないが、生きている我々が懸命に生きようとする姿を見せずしてどうするというのだ。いつまでも悲しんでなんかいられない。私達は過ぎ行く時と等しく、ただ前に進むしかないのだ。その道が過去よりももっと明るく希望に溢れた道であると私は信じたい。  カモメは冬になると日本に渡来する渡り鳥である。  冬の大洗と言えば鮟鱇(あんこう)鍋であるが、不運にも水曜の港町はどこもかしこも休業であった。関東の市場は土日休みのため、水曜に休むはずがないと高を括っていたがそんなことはなかった。  勿体無いなと思いつつも、男が一人寂しく鍋をつついても仕方ないなと自嘲しながら、神に見守られた港町を後にした。
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