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「イタッチ、古田から手を離して」
きわめて平静を装った声で言う事で、私は自らの動揺を覆い隠した。
「しかし、組長……」
「やめなって」
イタッチは、古田の胸ぐらから右手を力なく外した。
「組長」
イタッチが蹴り飛ばしたテーブルを戻し、ソファーに座り直すと、古田が私に目を向ける。
「何?」
「俺がシャブ触ってる事に関して、さっきから補佐しか喋ってませんけど、組長的にはどうなんです?
やっぱり組長も、俺がシャブ触るのに反対なんですか?」
「……まぁ、犯罪だからね。
それに、組が潰れるっていうし」
私は事前に聞いたイタッチの見解を、そのまま古田に返す事しか出来なかった。
「お言葉ですけど、組長」
古田は姿勢を正すと、言い淀む事なく、早口で言葉を吐いていった。
「シャブ触ってない組なんか、ありませんよ?
表立ってではないですが、皆、仕入れやなんなりで何かしらシャブには関わっています。
確かに、本家をはじめとする上の連中は、『薬物禁止』をうたっています。
けど、それは自分らの世間体を守る為に言ってるだけですよ。
まったく、勝手なモンですよ。
自分らは金に困ってないから直接シャブに触らなくてもいいけど、俺らシノギに困ってる末端のヤクザは、シャブとか女を売ったりとかしなけりゃ、会費すらマトモに納める事が出来ないんですからね」
「……言い訳だよ、それ。自分を正当化させる為のね」
末端のヤクザの現状を知らない私は、古田の気持ちを汲み取るのではなく、ただ咎める事しか出来ない。
「申し訳ないですが、もう少しだけ喋らせてもらっていいですか?」
古田は頭を下げながら言うと、続けた。
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