・ヤクザの現実

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「昔の俺?」 目を細めながらイタッチは言うと、灰皿をテーブルの上に置き、煙草を押し付け消す。 「そうです」 先程と同じく呟くように古田は返すと、続けて言った。 「『ホライゾン』を率いてた、あの輝いてた頃の俺にね……。 正直、あの時は楽しかったですよ。 世界そのものが自分の為に存在して回ってる、って真剣に思い込んでましたしね。 堕ちる事なんて、考えてもなかった。 むしろ、どうビッグになっていこうか、って昇りつめる事しか当時は考えてなかったですよ。 けど、あの立花とかいうガキとのタイマンで、全てが狂っちまった。 でKOっていう、あの屈辱的な負け方で、俺の人生の歯車は大きくズレちまったんです。 あの喧嘩以降、チームの奴らは誰も俺の言う事を聞かなくなった。 力づくで言う事を聞かせようとしたら、逆に返り討ちにされて嘲笑される始末です。 信じられませんでしたよ。 自分がそこまで、喧嘩が弱くなっちまってるって事実にね。 確かに、腕力も喧嘩する上では重要な要素です。 けど、喧嘩において大事なのは、絶対に引かない気迫なんです。 俺は、あの立花ってガキとのタイマンで、その気迫をすっかりと失っていた。 また、負けるんじゃないか、ってビビってる自分が、あのタイマンの後、俺の中に住み着いていたんです。 音を立てて崩れていく『ホライゾン』の崩壊を、俺には止める事が出来なかった。 というか、止める力がもう俺には残されていなかったんです。
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