スマイルさん(笑顔、笑い顔)さん

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その男。ニックネーム(あだ名)はスマイル(笑顔、笑い顔)。笑ってないのに、笑い顔。悔しい顔も笑い顔。 決して穏やかな性格ではないが、その顔は人には穏やかに思わす。穏やかに思われる顔だが、優しい人格はない。人からも、優しいとは思われない。かといって人に対する厳しさによる人望もない。 スマイルは、作り笑顔をしない。できないのとは少し違う。普通の顔が笑い顔。 スマイルが葬式や病気のお見舞いに行く。その笑い顔が親族から不謹慎に思われそうだが、そんなことはない。みんな、そういう顔の人だと分かっている。そんなことで、苦言をいうほど単純な人は少ない。粛々とした場に似合わぬ笑顔だが、その場の親族はただその場所に来てくれたことに感謝してくれる。 それを見た部外者が「不謹慎だ。」と、陰口をたたくくらい。  スマイルは寝起きが悪い。 ある朝のこと、朝といっても午前11時を過ぎた時間。台所わきの板の間に布団を敷いて寝ていたスマイルは起きたくないのに、眠りから意識が戻った。 決して、きれいとは言えない布団だが、スマイルは布団の少しツンとしたカビの匂いが好きだ。 しかし、スマイルの寝起きは機嫌が悪い。好きな自分の布団の中だけでは、アングリー(怒り顔)にプライド(誇り顔)をくわえたような顔になっている。 スマイルは「スマイル」とあだ名されるのは構わないが、「スマイリー」と呼ばれると顔を赤らめる。 スマイルは犬が好きだ。ある日、保健所に行き一匹の成犬をもらってきた。保健所の職員はその犬をキンカネと呼んでいたので、スマイルもそのままキンカネと名付けて家へ置いた。 スマイルはいつもの端から見た笑顔とは裏腹につねに不安な緊張に閉じ込められている。キンカネを家におくことでその不安な緊張から脱出しようと期待をかけた。 キンカネはよくなついた。 なついたたその時の癒しは、不安な緊張をかき消すには不十分で、その期待の大きさはしぼむことはなかった。 迷いは、笑顔で隠せても消える事はない。況んや犬でも。
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