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(よしっ......完璧だっ!)
加藤菜月は微笑んでいた。場所は通学路の公園、冬の桜の木の下。時にして真夜中二時のことである。往来に人の気配があるはずもなく、チラチラと積もるつもりもない雪がいたずらに舞う、そんな日だった。
師走の夜といえば澄み切った夜の風が肌を刺すーーはずなのだが、菜月はといえば制服に赤いマフラーをしただけの格好で太い桜の木の枝を見上げている。より正確にいえばその木の枝から垂れ下がるロープを、だが。
菜月には死にたがりの癖がある。
と言っても、菜月には目下直面している不幸で思い悩んでいることなどない。むしろ、菜月には好意を寄せているクラスメイトが居て、そのクラスメイトからも菜月のことを好いているかのようなサインに気がついたぐらいのタイミングである。少女漫画で言えば”おいしいところ”。幸福の真っ只中だ。
けれど彼女は死にたい。できれば今夜中に。
桜の木からぶらりぶらりと小さく揺れる厚い紐と、菜月の頭よりも少しだけ大きな輪っかが暗闇の中で存在感を示していた。小高い丘の上にあるこの公園で、彼女は死にたい。
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