再びの実家

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「ああ、翠珠殿。長男の縁談がだめになってしまったんだよ。都は年頃の娘が少ないからねぇ……また、一から相手を探すのは大変だ。海様、どなたか心当たりはありませんか?」  それを海志縁に聞くのか。彼だってまだ妻帯していないというのに。 「特にないな――あれば、俺がとっくに妻帯してるはずだ」  海志縁は、名に縁とついているにもかかわらず、なかなか縁談に恵まれなかった。つい先日持ちあがった縁談も、彼の方から断ってしまった――というのが、世間に知られている事実だろう。 (そう言えば、あの時、誰との縁談が持ち上がったんだろう……)  今になって、不意に気になってしまった。翠珠が悩みを打ち明けろと迫ったあの時。相手の親の弱みを握れだの、違う縁を結べばいいだのと好き放題言ってしまった。  あの発言を許すのだから、やはり彼は心が広いのかもしれない。そうでなかったら、翠珠を薔薇宮に移動させたりしないだろう。 「さようですか。まったく、そうですよね……」  はぁとため息をついた主は、それでも仕事のことは忘れていないらしい。てきぱきと葡萄酒を壺に注ぎ、ついでだからと翠珠には春永への差し入れを差し出した。 「娘に渡してもらえると助かるのだが」 「いいわよ。おじさんにはお世話になっているし、春永は元気だから安心して」
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