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差し入れは、自家製の焼き菓子のようだ。翠珠が妃になったとは知らないらしく、彼の態度は以前とまったく変わらない。
その彼の態度が、やはり翠珠をほっとさせてくれた。
呂家を出て、次に向かうのは翠珠の実家だ。先ぶれは出していないから、父は何も知らずに二人を出迎えた。
「これはこれは、海様。翠珠、まさかお前お暇を出されたんじゃないだろうね?」
妃になったとたん実家に帰ったものだから、いらぬ誤解を招いたようだ。父に向って、文浩は笑いながら言った。
「いや、陛下のお心遣いだ。翠珠なら、町中を歩いてもうかつな行動をとることはないだろうから、実家に顔を出してこいと。堂々と里帰りさせられないから、出入りは宮女の服装でということになるが」
(自分のことを陛下っていうのは、もやもやしないのかしら)
なんて思ったけれど、文浩の方は平然としている。海志縁として、皇太后のところに出仕しているように振る舞っていた期間もかなり長いから、一人二役も板についているんだろう。
「それで、今日は何をお求めに?」
皇帝を相手にしても、父は以前ほど動揺はしていない。落ち着き払って、文浩に向き合っている。ただの強欲な商人ではなかった。
「噂話を」
「かしこまりました」
父は、商売人の顔になると、二人を奥へといざなった。
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