それはまるで恋のようで

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それはまるで恋のようで

 父は、商人としての目から、国内外の情勢について語る。文浩もあちこちの国にスパイ――間諜というらしい――を送って情報収集はさせているのだが、父のような商人の持つ情報網というのも馬鹿にはできないらしい。 「米については、来年以降も輸入することとしました。呂家と協力して、新しい酒を造ろうとしているところでして」 「上質の酒ができたら、献上してくれ。母上の口に合うようなら、まとめて買い上げよう」 「ありがたき幸せ」  それから母も呼ばれ、久しぶりに母と会話をする時間を持つことができた。翠珠が妃になって以来、母を茶会に招きたがる家が増えたそうだ。 「今までは、私のことを馬鹿にしていたのにね……商人に嫁ぐとは、と言われたもの」 「お母様が貴族の出身だって、私すっかり忘れてたわよ」  どういう理由で両親が結婚したのかは知らないが、仲良く過ごしているし、外ではともかく、家庭内では父が母の尻に敷かれているように見えることが多い。  長年、肩身の狭い思いをしてきた母が、のびのびできるようになったというのなら――薔薇宮に移ってよかったのかもしれない。 (……まだ、受け入れたわけじゃないんだけど……)  皇帝に請われて妃の地位を与えられたのに、まだ真の夫婦とはなっていない。どうしたらいいのか、どうしたいのか――自分でもよくわからない。
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