1699人が本棚に入れています
本棚に追加
/219ページ
それはまるで恋のようで
父は、商人としての目から、国内外の情勢について語る。文浩もあちこちの国にスパイ――間諜というらしい――を送って情報収集はさせているのだが、父のような商人の持つ情報網というのも馬鹿にはできないらしい。
「米については、来年以降も輸入することとしました。呂家と協力して、新しい酒を造ろうとしているところでして」
「上質の酒ができたら、献上してくれ。母上の口に合うようなら、まとめて買い上げよう」
「ありがたき幸せ」
それから母も呼ばれ、久しぶりに母と会話をする時間を持つことができた。翠珠が妃になって以来、母を茶会に招きたがる家が増えたそうだ。
「今までは、私のことを馬鹿にしていたのにね……商人に嫁ぐとは、と言われたもの」
「お母様が貴族の出身だって、私すっかり忘れてたわよ」
どういう理由で両親が結婚したのかは知らないが、仲良く過ごしているし、外ではともかく、家庭内では父が母の尻に敷かれているように見えることが多い。
長年、肩身の狭い思いをしてきた母が、のびのびできるようになったというのなら――薔薇宮に移ってよかったのかもしれない。
(……まだ、受け入れたわけじゃないんだけど……)
皇帝に請われて妃の地位を与えられたのに、まだ真の夫婦とはなっていない。どうしたらいいのか、どうしたいのか――自分でもよくわからない。
最初のコメントを投稿しよう!