1698人が本棚に入れています
本棚に追加
/219ページ
翠珠にできるのは、これから先の未来を、できる限り悲惨なものから遠ざけることだけ。
顔を上げたら、ちょうど市場を通りがかったところだった。
「何か欲しいものはないか?」
店先に並んでいる品を視線で示しながら、文浩が問う。
「別にありませんよ。だって、後宮にいたら、なんでも手に入るじゃないですか」
以前ならなかなか手に入らなかった甘いお菓子も、今では厨房に頼むだけですぐに届けられる。
春永とだけ食べるのは申し訳がないから、春永に頼んで、時々前の同僚のところにも届けてもらっている。
「虐められることも考えていたんですけど、皇太后様は私のことを大切に扱ってくださいますし……使用人も、親切にしてくれる人に全員入れ替わったし……」
翠珠が妃になったら、いろいろと嫌な思いをさせられるのだろうと思っていた。だが、翠珠の側についている侍女は春永一人。その他にも侍女はいるけれど、皆、翠珠より年上の者に変更された。
「今のところは、すごく快適なんですよ。こうして、外にも連れ出してもらえたし」
父の顔を見ることもできたし、少しだけ母を話をする時間も持てた。翠珠からしてみれば、今は生活という面では満たされている。
最初のコメントを投稿しよう!