それはまるで恋のようで

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 翠珠にできるのは、これから先の未来を、できる限り悲惨なものから遠ざけることだけ。  顔を上げたら、ちょうど市場を通りがかったところだった。 「何か欲しいものはないか?」  店先に並んでいる品を視線で示しながら、文浩が問う。 「別にありませんよ。だって、後宮にいたら、なんでも手に入るじゃないですか」  以前ならなかなか手に入らなかった甘いお菓子も、今では厨房に頼むだけですぐに届けられる。  春永とだけ食べるのは申し訳がないから、春永に頼んで、時々前の同僚のところにも届けてもらっている。 「虐められることも考えていたんですけど、皇太后様は私のことを大切に扱ってくださいますし……使用人も、親切にしてくれる人に全員入れ替わったし……」  翠珠が妃になったら、いろいろと嫌な思いをさせられるのだろうと思っていた。だが、翠珠の側についている侍女は春永一人。その他にも侍女はいるけれど、皆、翠珠より年上の者に変更された。 「今のところは、すごく快適なんですよ。こうして、外にも連れ出してもらえたし」  父の顔を見ることもできたし、少しだけ母を話をする時間も持てた。翠珠からしてみれば、今は生活という面では満たされている。
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