それはまるで恋のようで

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 自分の希望とはまったく違う立場に置かれているという点にはまだ困惑しているが、焦ってもすぐには立場を変えることができないであろうこともわかっている。 「あと、あるとすれば……そうですねぇ……うん、やっぱりないかも」  顎に手をあてて考えてみるけれど、欲しいものなど思いつかない。 「翠珠は、欲がないんだな。後宮に入るくらいだから、てっきり欲深いのかと思ってた」 「そんなの。単にお妃様に憧れたからですよ。後宮に入ったのは父に騙され――騙されたというと語弊がありますけど、お妃様になったら綺麗な衣を着ることができて、おいしいお菓子が食べられるって言われたからですもん」  いざ妃になってみたら、美しい衣も、豪華な宝飾品も、意外と心を揺さぶらない。  ひょっとしたら、皇太后の衣を縫っている間に見飽きたのかもしれないと思えば、とても贅沢な話ではあるのだが。 「そうか。翠珠らしいな」 「私が何も考えてないみたいないい方、やめてくださいよ。私だって、それなりに考えてることはあるんですー」  彼が"志縁"だった頃のような、こんなやり取りが楽しい。  きっと、引かれてしまうだろう。隣にいるのが、皇帝じゃなければよかったのに、なんて、考えを知られたら。 「……それなら、今、何を考えているのかを教えてくれ」
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