それはまるで恋のようで

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 もし、二人交際相手がいたら、それは二股として、周囲から白い目で見られた。  けれど、この世界では違う。文浩は、いずれたくさんの妃を迎えることになる。  それが嫌だ――なんて、言ってはいけないのもわかっている。 (そもそも、私自身の立場があいまいってところを忘れちゃだめよね……まだ、飢饉を乗り切っただけだし……)  なぜ、翠珠の中に違う世界の記憶がよみがえったのか。  後宮から自分が逃げたいという理由で動き始めたことが、思っていた以上に大ごとになってしまっている。 (妃にはなりたくなかったのに……) 「ひとつ、聞いてもいいですか?」 「なんだ?」  勇気を振り絞って問いかけたら、足を止めた文浩はこちらを振り返る。 「もし……もし、私と父の献策が役に立たなかったら。あなたは、私を迎えようと思いましたか?」 「それは――」  それは、禁断の言葉だったかもしれない。  口にしたことによって、彼との関係が大きく変わることになるかもしれない、禁断の言葉。  けれど、彼が何を言おうとしたのか――翠珠は聞くことができなかった。 「もし、そうだったとしても――危ないっ!」  不意に腕を掴んで引き寄せられる。翠珠は上がりかけた悲鳴を飲み込んだ。
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