孤独な背中

3/6
1698人が本棚に入れています
本棚に追加
/219ページ
(……間違いなく、陛下を狙っているのよね)  だが、文浩が外に出るというのは、ごく限られた人間しか知らないはずだ。  それなのに、なぜ、こうして待っていることができたのだろう。  翠珠の目の前で敵と切り結んでいる文浩の姿は、こんな状況なのに美しかった。圧倒的な強さ。誰も、彼の前に立ちふさがることはできない。  血の臭いが翠珠のいる場所まで届き、衣の袖を口に押し込む。悲鳴を上げてしまわないように――。  妃になるという事実の重みを、改めて目の当たりにしたような気がした。そう、この光景から逃げてはいけないのだ。  これから先も、文浩と共に歩いていくつもりならば。同じように命を狙われることもあるだろう。 (私は――私は、立派な妃になれる?)  望んでついた立場ではない。  今だって、心のどこかには文浩を恨みに思う気持ちがあるのも否定はできない。  ――でも。  残る二人は、慎重に文浩の様子をうかがっている。胸にひりひりとするような痛みを覚えながら、翠珠は見守ることしかできなかった。 「や――やぁぁぁぁぁっ! 倒れろ!」  自分自身に気合を入れているかのように、男のうち一人が声を上げながら文浩に切りかかってくる。
/219ページ

最初のコメントを投稿しよう!