孤独な背中

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 こちらを振り返った彼もまた、そのことに気付いたようだった。少しだけ、目元が柔らかくなる。 「おそらくな。俺を面白くないと思う者は多い――弟達のうちの誰かについている者か、それとも他国の者か」  文浩の弟達は、王の位を賜り、国内あちこちに散らばっている。 「……なんで、こんなことに」  この言葉を繰り返すのは、もう何度目になるのだろう。自分の思ってもいないところで、どんどん事態は進んでいる。 (違う。この人の周囲には、敵しかいないんだ。例外はきっと、皇太后様くらい……)  皇帝としての彼にも。志縁としての彼にも。  たくさんの敵がいるのに、味方はほとんどいない。皇帝という地位は、孤独だ。誰にも弱みを見せることはできないのに、年若い彼を侮る家臣も多い。  志縁にしたってそうだ。赤い鬘をかぶり、異国の血が混ざっている――それは深く追及されることを防ぐ効果もあるけれど、それと同時に『海志縁』という人物に深くかかわろうとする者を遠ざけるものでもあった。  そのことに改めて気がついて、翠珠は胸が痛むのを覚えた。 (……もし、私が妃になった意味があるのなら)  彼の背中を、そっと支えることなのかもしれない。
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