孤独な背中

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 ゲーム本編で語られた昔の文浩。彼にとって、愛したのはヒロインだけ。それ以前に、彼に嫁いだ女性達は、何の意味も持たないと――そう思っていたけれど。  もし、翠珠がこの世界に生まれてきて、自分が望まないまま妃の地位を与えられたのは。  この孤独な背中に寄り添うためなのかもしれない。 「――悪かったな。まさか、ここで襲われるとは思ってもいなかった。人を呼び、生きている者は連行してもらおう」 「わかりました。志縁様にお怪我がなくてよかったです――本当に、よかった」  だから、なんでもないふりをして翠珠は笑ってみせる。  翠珠が妃の地位に追いやられた意味があるのなら――少しでも彼の支えになりたい。  胸に手を当て、仕草でもなんでもないと見せる余裕さえ生まれてきた。  そう、悪いことばかりではなかったのだ。いいことだってあった。久しぶりに、皇帝ではない彼の表情を見ることができた。  今日あったいいことを、しっかり覚えておけばそれでいい。 (……立派な妃になれるとは思わないけれど)  もし、許されるのなら。  翠珠が後宮から去った後、名前くらいは記憶の片隅にとどめてほしい。
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