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(……今はそれどころじゃなかったか)
今、自分がやるべきことをしっかりやらなければ。
とにかく、整理してみてわかったのはとにかく時間が足りないということ。国全体を救うより、自分と家族が逃げる方を第一目標とした方が絶対にいい。
(……あ、海様だ)
ふっと窓の外に目をやれば、侍医馬医師と歩いているのは、皇太后の護衛である海志縁だ。異国の血が入っているそうで、髪の色は他の人と比べると明るい。
腰に帯びた大剣、堂々とした体躯。護衛らしく目は鋭く、宮女達の間では「顔は整っているけれど怖い」という理由で遠巻きにされているのを翠珠は知っていた。
(今日は、海様こっちに来てたんだ)
頭では、過去の記憶を整理しなければいけないとわかっているのに、耳は志縁と馬医師の会話を拾ってしまう。
「皇太后様の頭痛は、もうひと月も続いている。どうにかならないのか」
「そんなことを言われてもな……」
志縁に強い口調で言われ、馬医師は困っているようだ。
異国の血が混ざっていると差別されやすいが、皇太后はそんなことは気にせず志縁を重用している。そんなわけで、志縁は皇太后にものすごい感謝の念を抱いているようだ。
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