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街中に連れ出してくれたのは、望みもしない地位を押しつけられた翠珠に配慮してくれたからだろう。
(……嫌ってわけではないのよね……)
寝台にごろりとうつぶせになって寝そべり、組んだ両腕の間に顔を埋める。
勝手に妃の座を押しつけられたことに反発する気持ちもあるけれど、彼という人間自身は嫌ではないから――困る。
「ご……ごめんなさい! 牡丹宮の手伝いに行ってて、気づかなくて……」
「ううん。予定よりだいぶ早く戻ってきてしまったから……ちょっと、いろいろあってね」
男達に襲われた一件がなかったら、暗くなるまで外にいる予定だった。評判の茶店で、食事をさせてくれると言っていたのだ。
顔ほどの大きさがある肉饅頭を食べさせてくれるそうで、ちょっと楽しみにしていたのも本当だ。だから、牡丹宮の手伝いに行っていた春永が、戻りまでまだ時間があると思っていてもおかしくはない。
春永に実家から預かってきた土産物を渡す。どうやら、甘い菓子のようだ。包みを開いて、春永は顔をほころばせた。
「焼き菓子だ! お茶いれてくるから一緒に食べましょう」
「そうね。あ、待って……じゃあ、こちらの干棗も一緒に」
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