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土産を受け取った時見せた弾けるような笑顔は、完全に姿を消してしまっていた。余計な気を使わせてしまっただろうか。
それでも慣れた手つきで春永はお茶をいれ、二つの器に注ぎ入れる。漆塗りの皿の上に、菓子を乗せ、窓際の卓に置いた。
「……心配させたくなかったから……ごめんなさい」
「あなたに何もないなら、いいわよ。実家にも寄ってくれたしね」
好物の焼き菓子を前に、春永の機嫌はあっさりよくなったようだ。実家での話をしている間に、翠珠の方も落ち着きを取り戻してきた。
「翠珠。今、いいか?」
「は――はい!」
扉の外からかけられた声に、先に立ち上がったのは春永だった。慌てて扉に駆け寄り、内側から開く。
入ってきた文浩は、武官としての服装ではなく、皇帝としての衣に身を包んでいた。
髪の色が変わるだけで、やはりずいぶん印象が変わる。
「今日は悪かったな――今まで外歩きをして、襲撃されたことはなかったんだ」
「ちょっと驚いたけど、でも……こうしてここに帰ってこられたから、大丈夫です」
軽い調子を崩さないようにして返した。
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